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龍と獅子と猫の物語  作者: Neight
第2章 サウスノール商業都市国
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第8話 石蛇⑨

…その頃…


《side:ヴァル》


サラが意味深に言った言葉が気になった私は、国の改革を進めると共に"とある事"に関して調べていた。


彼らと別れて凡そ六日…ついに母上の部屋にあった一冊の日記に辿り着いた。


そっと埃を払いながらゆっくりと開く…


幾ら自分の母上の日記だとしても、あまり読んでしまうのは気が引けるから手短にしよう。


パラパラと流し読みして、目的関係のものだけ探していると…最後の方のページで手が止まった。




●月●日


今日、私とお姉様の静止を聞かなかった陛下は…"勇者召喚"を行ったわ。


そんな事をしても何にもならないというのに…何故分からないのかしら…。


召喚されたショックで気絶している人物が少女だと分かって、陛下はすぐに私の所の離宮に軟禁する様にと仰られたわ。


はぁ…この子も可哀相に。


きっと私達と同じ運命にあってしまうのでしょう…。


私は体調が優れなかったから、ヴァルを向かわせたわ。


あの子はこんな環境で育ってしまったから人間不信で表情になってしまったけれど、根はとても優しい子だから…多分大丈夫ね。



●月■日


"勇者召喚"から3日後。


体調が大分良くなってきたから、彼女に会いにいったわ。


彼女とヴァルが笑顔で話している所を見ると、姉弟の様に見えてとても微笑ましかったわ。


でも彼女の顔を見た時、私の思考は止まってしまったの。


…あまりにもお兄様にそっくりだったのだから…!


それに紫色の瞳だなんて…。


尋ねてみると、彼女…リィアレースはどうやらローゼンブルグから来たみたいね。


その後も私は必死になって彼女から色々訊いたわ。


その時の表情はさぞかし鬼気迫っていた様ね、リィアレースの顔が引き攣っていたもの。


…でもね、私はそんな事を気にする余裕は無かったわ。


質問している内に、私の感が確信に変わっていったのよ…?


話を纏めると───




続きは次のページに書いてある様だ。


緊張と焦燥で手が震える。


ごくりと唾を飲み込んだ私ははやる気持ちを押さえつけながらページを捲り、目を通して…



…ドサッ


「…………なっ」



本を落とした。


…まさか、そんな筈は無い。


だが、もしそれが本当なら…私が困るのだ。



「…この場合、どうするべきなのか…打開策が全く思いつかない」



この事をサラやリィアは知っているのだろうか?


もし知っていて、私に言ってないのなら…



「……っ!」



此処最近、何故か胃がキリキリと痛み出す。


私は日記を懐にしまいながら、慌てて部屋を飛び出したのだった。


…医務室に向かって。



―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―★―☆―



《side:澪羽》


無事倒し終えた私達は速攻でギルドに向かったよ。


早く屋敷に入って、例の人に話しかけないと…逃げちゃうかもしれないってお父さんが言ったから。


…それって、どういう事なんだろう?


そんな事を考えながら歩いてると、ギルドについたので中にお邪魔する。


入った瞬間、私達…特に私と兄ちゃん達に視線が注がれた。


警戒しているらしく、殺気の様なものを背中に感じるけれど、無視無視。



「お疲れ様です。…既に貴方達の噂は流れてますよ?」



受付のお姉さんの言葉に私達は総出で苦笑い。


早過ぎるよ…冒険者の情報網…。



「はい、証拠としてのバジリスクの左右の牙、計20本は全て本物。クエスト達成報酬として500000G、牙の換金金額1000000G…合計1500000Gですね」



という事は、バジリスク一体と牙一つが同じ値段の50000G…500万?で、1億5000万?


うん、金銭感覚狂いそう!


向こうでの私達の周りって結構お金持ち多いから耐性ついてるけど…普通に考えたら宝くじ級なんだよね…これ。



「…こんなに貰ってギルドの経営傾かないか?」


「その問題は大丈夫ですよ。…此処だけの話、契約金や各国からの支援がありますから。それに、ここで支払われないと思われると、冒険者のギルドに対する信頼が欠けますから遠慮なく貰って下さい!」


「…ふーん、そうなんだ。じゃあこれ、遠慮なく貰っておくね?」



小声でとんでもない事を暴露したお姉さんはニコニコしながらカウンターの上に重そうな大きな袋を置く。


ルー兄は少しだけ考え込んでいたけれど、口角を上げて片手でそっと掴んだ袋を鞄の中に落とした。



「では、僕達はこれぐらいで失礼するよ」


「…あっ、はい!またのご利用いつでもお待ちしていますー」



店員さんは明かに入らない大きさの袋が学生鞄に入った事に驚いていたけれど、聞く必要はないと判断したのかな?特に何も尋ねて来なかった。


そのまま、私達はギルドを後にする。


ギルド内にいる人達が何か言いたそうにコッチを見たり、声を上げたりしているけれど、私達はスルーする。


だって…反応したら面倒になりそうだもん。



「……あっ…ッス」


「どうかしたんですか?」



今までいたのか分からない程空気になっていた水簾が声を上げる。


……存在忘れていたなんて事は無いよ?本当だからね?



「そ、それが…」


「それが?」


「仕事忘れてたッスーー!!!」


「な、なんじゃとーーー!!??」



あ、焔ちゃんいたんだ。


…こほん、それは良いとして…



「仕事?神様にもあるの?」


「ありますよ。多分澪羽ちゃん達の想像通り、世界や生物のバランスを調整したり管理する仕事ッス。俺達の場合は追放された身ッスから、自分の世界しか行けないんですけどね。でも、今回のはそうじゃないんッスよ」


「えっ、じゃあ何だ?」


「バイトッス」


「「「「…ええええーーーっ」」」」


「な、何で棒読みッスか!?神だってバイトするッスよ!?聖さんだってしてたッス!!」


「…まぁ、父さんは人間として暮らしてたからな。しょうがないだろ」



…うん。お父さんはこっちに来るまでずっと一緒にいた訳だから、バイトぐらいやってたかも。



「…って、からかうのは楽しいから良いが、大丈夫か?時間」


「酷いッス!って…や、ヤバいッス!怒られるッス!姉さん手伝って下さい!!」


「…嫌じゃ」


「何で!?」



焔ちゃんが心底嫌そうに顔を顰めて、お父さんの後ろに隠れた。


…本当に二人は神様なんだよね?間違いじゃないよね?


それ以上に焔ちゃんがお姉さんで水簾が弟くんなのが凄く違和感があるよ。


だって、水簾の今の表情…娘に嫌われた父親みたいだよ?



「しょうがないの…わらわの条件をのんだら手伝ってやらん事もないぞ…」


「何ッスか!?」



お父さんの背後からもそもそと水簾の前に出てきた焔ちゃん。


対する弟くんは固唾を呑んで見守る。


そして、焔ちゃんは顔を上げ、嫌そうな顔をしながらたっぷり貯めて一言。



「知り合いの前で女装姿を公開するんじゃったらな」


「何その公開処刑!?それだけは勘弁ッス!!!!」



焔ちゃんの死刑宣告(?)に水簾は「うあああぁぁッスぅぅう!!」と泣き叫びながら走り去っちゃったよ…。


涙が滝みたいだったもん…。もしかして名前の由来此処から来てたりして?



「で、焔はどうするのかね。弟は行っちゃったけど」


「…あんなのでもわらわの弟じゃからな、追いかけさせてもらおうかの」



焔ちゃんは走り去った弟の背を、目を細めて見ていた。


…でも、言ってる事はかなり酷いけどね?



「じゃあわらわは行くの。すまぬが別行動じゃ」


「おう。気をつけろよ」


「あははっ、がんばってね」


「うん…また会おうねー」



それぞれ、声をかけた後、焔ちゃんはふわりと消えていった。


ん?でも、街中で転移なんてしちゃっても良いの?



「大丈夫だよ。認識阻害がはたらいてるから」


「そうなんだ~」



顔に出ていたのかお父さんが説明してくれた。


認識阻害…応用利き過ぎじゃないかな?



「で、いつまでそこにいるつもりだ?こそこそ俺達の会話を盗み聞きしてた癖に」



私の後ろの建物の影に向かって険しい目つきで睨みつけるリュウ兄。


うん、私も分かってた。


だって、私でも分かるぐらい大きな気配がそこにあって…隠しきれてなかったから。


…でも、ワザとだと思う。だって彼は絶対に強い。


ストーカーだけどね!



「別に秘密話じゃないっしょ?待ってる間暇だったから別に聞いたって問題ないだろ」



するりと音もなく現れたのは、赤毛に眼帯にとがった耳、砂漠なのに私達と同じぐらい軽装の…"鷹の爪団"の団長さんだった。


さっき会った時みたいに何処か他人を子馬鹿にする表情をしている…。


そんな団長さんは此方に顔を向けてとびっきりの笑顔を振り撒いた。


瞬間、私の周囲の気温が若干肌寒く感じるぐらいに下がった。


…此処砂漠の中心だよ…?



「…お前の存在自体が赦せないね」


「糸目のお兄さん?ちーっとばかし殺気漏れてない…?」


「気のせいだと思うよ」



何故かピリピリしている皆。


普段温厚なお父さんがずーっとイライラしてるって…尋常じゃないよ…?



「…で?用もないのについて来ないでくれるかな。というかさっさと消えろ」


「風雅なお兄さんも結構きっつい事を言うね…」


「そんな事は良いですから早くしてくれませんか?急いでるので」



団長さんは冷ややかな視線と言葉に大げさに肩を落として溜息をついていたけれど、直ぐに立ち直って口を開いた。



「俺のアジトへ来いよ。歓迎してやるぜ?」



何処かふざけた表情の団長さんだけど、目は笑っていなかった。

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