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龍と獅子と猫の物語  作者: Neight
第2章 サウスノール商業都市国
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第8話 石蛇⑧

《side:隊長》


やあ、また会ったな、隊長事俺だ。


前回から色々と珍行動…ではなく、不可解な事をしている彼ら。


今度は水晶の様な小さなものを砕くと服装が変わるという…思わず唖然としてしまう現象が起こした。


単体でもかなり難易度の高い"圧縮"、"装填"、"装着"、"付与"の四つを同時進行で行うという超高等魔術が使われていたのは見間違いに決まっている。


…と、言いたい所だが、目にしてしまったので否定できない。


たががアレだけの為に一財産が稼げる能力を使うとは…なんという才能の無駄遣いなんだ…。



「た、隊長ッ!バジリスクが近付いて来ています!直ぐに目視出来る範囲まで来るかと…」



偵察に向かっていた部下が息を切らせながら口を開く。


バジリスクは砂の中を水中にでもいるかの様に進めるのだ。


それを考えると…時間がない。



「…っと、じゃあ行ってきますね。方角はどっちですか?」


「はぇ?あ、あっちです」


「あ、本当だ!砂煙上がってるよリュウ兄!」


「おっ!…って、バジリスク土の中に潜れるのか!?聞いてない…」


「…母さん達の事だから態とだと思うよ?兄さん」


「………」



黒髪の少年達は、バジリスクの基礎的な知識が抜けている様だが…本当に大丈夫なのか…?


話している間、黙々とバジリスクは近付いてきてるのだが…。



「ともかく行こうよ。…ほら後200m」


「お、おうっ!」



背中の一部が変形して刃状に発達した鱗が砂から伸びている為、何処にいるのかは一目瞭然だが、砂の中にいる間はコチラからは攻撃出来ない。


このまま街まで進行を許したら…想像したくないが、悲惨な結果になる事は間違いないだろう…。


彼らとは賭けをしたが、賭けの約束を守るよりは人の命の方が大切だ。


いざとなったら、それを破る覚悟だったのだが…相手は地中。


何としても阻止したいが、攻撃手段が皆無の為…俺達はどうする事も出来ない。


それは彼らとて同じだろ…うん?



~~♪~♪~~~~♪~~



突如、鈴の様な美しい歌声が大声でもないのに辺り一面に響き渡る。


不思議と聴き入ってしまいそうになったが、何とか我に返った俺は…直ぐに異変に気づけた。


砂漠の砂は細かく、降水量が少ない所為で年中乾いている。


その為、歩く度に足が若干地面に沈むのだ。


砂漠に住んでいる俺達は砂漠での歩行方法には慣れたもので、埋まったとしても、他の地の者が硬い地面を踏みしめるのと同じ様に歩く事が出来る。


つまり、何が言いたいのかというと…


足が動かせん。


足が竦んだとかではないのは俺と同じ状況に陥っている周囲の人の反応で分かる。


確認の為に剣の鞘で地面を突付くが、金属の様に高い摩擦音が響いた。


………もしかして、彼女が歌ったからなのか…!?



……ゴゴゴゴゴゴゴゴッッ…ッ…



俺が呆気に取られていると、今度は地面が揺れ始めた。


彼方此方から悲鳴が上がる。


俺も声こそ上げなかったが、脳内は混乱に陥っていた。


揺れは徐々に激しくなり、地割れを引き起こす。


下に潜っていた筈のバジリスクが大地を突き破る様に這い出てくる。


成る程、先の地震はバジリスクが原因…って、ちょっと待て。


色々と理解不能な点が…!?



「うーん…やっぱり出てきちゃったんだ…。リュウ兄、ルー兄、私はサポートに回るからがんばってね!」


「おう!」「おっけー」


「…じゃあ、【マルチタスク】と【クイック】の重ねがけ!!」



バジリスク達は、いきなり砂の中に閉じ込められた所為で怒り狂っているらしく、放たれる威圧は凄まじい。


そんな相手に二人の少年は一直線に駆け込む。


待て!奴らは石化以外にも口から炎を吐いたりするぞ!!


咄嗟に声が出ず、手を伸ばしたのは良いが、案の定空を切り、気づかれなかった。


ああ…俺の目の前でまた命が消えてしまう…


声が出なかった事に対して悔やみ、目を閉じた。


が、それは全くの杞憂に終る。


何故なら…



「…へぇ。鱗の成分は●●●と▲▲▲▲と■■を主成分にその他数十種類で成りってるんだね。じゃあ、コレとコレとコレとコレ…それとコレでどうかなっ!!」



シュッ!!


パリーーーーン………ジュ……



ギャァァァァアアア!!!!



柔和な笑みの少年は、ポケットから出した液体の入ったガラス瓶を複数個纏めて投げつけ、バジリスクの強固な鱗を溶解し、



(ほうちょう)の錆にでもなっとけっ!!」



先程まで哀愁が漂っていた少年は、鱗が剥がされ、痛みで動きが鈍ったバジリスクの表皮に手が霞む勢いで包丁を叩き付けていた。


行動としてはそれだけなのに瞬く間に次々とバジリスクは倒れていく。


正直思考が追いつかず、ショートした意識が戻ってきたのは、全てが終わり足元の硬化状態が解けてからだった。


周りは戻ってきているものも少なく…俺はまだ"マシ"だった様だ。



「隊長さん、はい、コレ」


「あ、ああ…」



ズッシリと重い袋を渡される。


先程まであれ程(一方的だだったが)凄まじい戦闘を前方でしていた筈なのに、いつの間にか俺の後ろに立っていた。


三人とも、服の汚れどころか呼吸すら乱しておらず、涼しい顔で彼らに賭けた人に袋を渡している。


お、驚かないぞ…彼らの規格外っぷりは身に染みた…!


今後、何が起きても軽く流せそうな気がするな…。



「はい、バジリスクは討伐しましたよ。ギルドに証拠として牙は持って行きますが、他は要らないのでお好きにして下さい」



彼ら三人は涼しげな表情のまま、仲間らしき五人と共に街中へ去っていったのだった。



「お、おい…コレどうするよ…」


「平等に分けたとしても…掛け金平気で上回るぞ…?」



暫く停滞していた空気だったが、徐々に当惑が広がる。


それもそのはず、バジリスクは大きいものであれば比例して強度が増す。


その分加工が難しくなるが、そのリスクさえ気にならない程に素晴しい武器や防具が出来上がる。


何せ、バジリスクは砂漠で生きている為に耐熱、耐冷性があり更に強度が高いときたら、砂漠で狩をしている冒険者や自衛団にとってはそれこそ"咽から手が出るほど欲しいもの"だ。


だが、個体数が少ない上に強く、供給数が非常に少ないが為に高額で取引されている。


更に、骨も鱗に引けを取らず高額取引されているし、俺は食べた事がないのだが、肉は程好く霜が入っていて美味しいらしい。


そんなものが一部鱗が無くなっているだけで状態の良いものが十体分もあるのだ。…騒ぎにならない方がおかしい。


欲深いものは早速剥ぎ取ろうとするが、幾ら剣を振り回そうとも傷一つつかない。


薬品で溶化した表皮付近の場所でも、だ。


…本当に食べられるのか?バジリスクの肉は…



「隊長、アレどうします?早く何らかの処理をしなければ、血の匂いを嗅ぎ付けた魔獣が集まりますよ…?」



……成る程。


彼らは"賭けに負けた人々の非難回避"だけではなく"面倒事の処理"も押し付けたのか。


渡された袋の紐を解くと、中に入っていたソレを手に取る。


袋を渡された時、金属類ではない別のものが入っている気がしたが…紙か。


小さく折り畳まれた紙をガントレットを外した手で開く。




バジリスクは僕達だけでは処理できないので宜しくお願いします。


売るなり煮るなり使うなり…ご自由にしちゃって下さい。(笑)


ただし…処理するなら早めにした方が良いと思いますよ。


ちょっと先にデザートウルフが3桁近くいましたから。


ランク的にはCらしいんで大丈夫かなーと思ったのでお任せします。


なので匂い消しぐらいは先に…あーでもコレを読んでいる時にはもう遅いかもしれな…




ガルルルル…………


「デザートウルフが向かってき……ぁ!!!!」



…手紙を読んでいる最中に前方から悲鳴が飛ぶ。


何なんだ…予知能力もあるのか…?否定できん…。


色々と自信を無くした俺は肩を落とした。



「…これ終ったら隊長職辞職しよう」(ボソッ)


「「「「「しないで下さい!!!」」」」」



…………部下に怒鳴(おこ)られた。

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