第0話 召喚③
《side:劉夜》
爆睡し始めた母さん達を放置して、俺達は玄関を出た。
まだ朝が早いので辺りは閑散としている。
俺達は親がアレな職業だったから、家族に何かあっても対処出来る様にゆっくり歩いても徒歩約15分という交通便が便利な近場の私立に通っている。
というのが表向きな理由で、実は澪羽に同じ学校じゃなきゃ嫌と言われたから同じ学校に通っている。
…それにしても、この学校のレベルは異様に高い、高すぎる。
此処受かったら一通りの大学受かると言われるぐらい高いし、何よりも試験が初等科からだ。
つまり、幼稚園児・保育園児から試験勉強だ。
…当時、受かるのに物凄く苦労したんだよな…。
まぁ、入学した後は大学院までエスカレーターなんだがな。
璃音はもちろん、澪羽も楽々入学したってのに!!
誰か俺の脳と交換してくれー!!!
…ん?何で璃音と澪羽がこっちを見てニヤニヤしてるんだ…?
「お兄ちゃん、脳内駄々漏れだよ?」
「前半真面目っぽかったのに、後半素がでてるよ?兄さん。
折角前回澪羽が比較的まともに話を繋いだっていうのにさ~。3話目で、ね」
「ルー兄、比較的って…」
なん…だと!?
って、繋いだってどういう事だよ?
「うん?世界意思からの電波を受信したんだよ」
「ルー兄、それ言っちゃ駄目だと思うよ…?」
電波?…ついに可笑しくなったのか?
てか、これ付けてると脳内全部もれるのかよっ!!!
じゃあ、今まで誰に向かって話してたのか分からない内容聞かれてたのか!?
…ある意味不便だな…普段は外しておこう…!
俺が外そうとすると、璃音の奴が爽やかな笑みを浮かべながら…
「ああ、そういえば言い忘れてたね。
それ、1度付けると外せないから。外すと呪われるから覚悟宜しく」
…諦めるか。
本当に呪われそうで怖い。
「って、何で璃音と澪羽の声(?)は聞こえないんだ?」
「このピアスの効果は"超能力"に似てるから澪羽は制御できるし、僕は製作者だからね。こればっかりは慣れだよ」
「リュウ兄の考える事は私達に筒抜けだから、変な事は考えないでね?」
「誰が考えるかよ!!!」
俺の事普段どういう目で見てるんだっ!?
多分伝わってるだろうが、そう言おうと前を歩く二人を追いかけて…
璃音の背中にぶつかる。
「おい、急に立ち止まってどうし…ん?」
そう言いかけたが、前方の謎の物体を見て俺も唖然としてしまう。
目の前に直径二メートルぐらいのダークホールとしか言いようの無いものが、五十メートルほ程先の道を塞いでいた。
…ちょっと待て。
落ち着け…落ち着くんだ、俺。
こんな非日常な物体がこの世にある訳…
「これは…アレだよね?」
「所謂テンプr…もがっ!?」
「バカっ、璃音!それ言うとフラグが…!」
慌てて璃音の口を塞いだが、如何やら既に遅く…ブラックホールモドキが高速で近づいてきた。
一番近くにいた澪羽が引き込まれそうになり、咄嗟に璃音の服の袖を掴む。
二人で必死に抵抗するも引き込む力の方が強く、璃音も開いている手を後ろに伸ばして…
俺の首を掴みやがった!
「ちょ!?璃音、首っ…首絞まってる!!」
わざとだろ、これ絶対わざとだろっ!!
そう思ってる間にもどんどん引き込まれる力は強くなっていき…
「きゃぁぁあ!!」
「わぁぁっ!?」
「首ぃ…絞まっt…」
俺達は漆黒の闇の中に引き込まれた。
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《side:リカ》
「ほら、ひ~くん起きなさい」
「リカ…もうちょっと寝かせてくれ…」
ううっ…私まで眠くなってきちゃったじゃないの。
まあ、リュウくんが朝食作ってくれるだろうし…私ももう一眠りしようかしら?
「もぅ、しょうがないなぁ…。
ま、出勤時間まで時間があるから、もう少しだけ寝ましょうか。…お休みなさい~」
私もベッドに入り何分か経ち、うとうとしかけた時。
「っ!?」
…あの子達の気配が消えた…!?
起き上がり、隣で寝ているひーくんを起こそうと振り向くけど、既に起きていて、あの子達の気配が突然切れた方角へ顔を向けていた。
その表情は強張っていて、普段は糸の様に細く閉じている鋭い目が見開かれ、驚愕の色に染められている。
…あら、そんなに開くとドライアイになっちゃうわよ?
って、そんな場合じゃなかったわね…。
「これは…召喚魔法だな」
「やっぱり?」
ひーくんの声がいつもよりも低い…そう、こちらの世界には微量しかないはずの魔力を感じたの。
召喚魔法の【ゲート】が使われてた。
高位の魔道士が何十年も修行をこなさないと無理な魔法。
こちらの世界に限っては、人に宿る魔力はほんの僅か、世界から魔力を譲って貰って足りたとしても、魔法が豊富にある世界で何十年もかかる修行が出来るはずが無いのよ。
十中八九召喚魔法を使ったのはあちらの世界ね。
それにしても…開き方が強引過ぎて安定してないじゃない…未熟者の集団が唱えたのね。
「助けに行きたいが…俺達は…」
「そうね……ひーくん戻ってるよ?」
「っ!あぁ…悪いね」
声をいつものトーンに戻し、ハハハと頭を描きながら鋭い眼を閉じた。
私達はとりあえずリビングに行った。
そこで私達は思わぬ物が置かれているのに気がついたの。
劉くんが作ってくれた美味しそうな朝食の横に…"使い方"と書かれた紙と2つの菫色に輝くピアスがある事に。
「これは…微量に璃音の気が入ってるね」
「うん…それにこれを付ければ念話が使える…良く作ったものね」
安心したわ。
相当高度な材質と技術が使ってあるし、これがあればもしかしたら連絡取れそうだもの!
ひーくんもそうだった様でほっとした表情で頷いている。
「まあ、念には念を入れておいた方が良さそうだ」
そういってひーくんは着ていた着物の懐から例のモノを取り出すと、破ったのでした。