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龍と獅子と猫の物語  作者: Neight
第1章 ウェスタリア王国
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第7話 改革⑦

《side:劉夜》


取り敢えず、突然人が倒れるという事件(?)は、終息に向かった。


澪羽が王子の奴に絡まれた様なので、ヴァルとポチは分身残して、本体はついていった。


という事は、ある意味…



「一人、か…」



いや、別に寂しい訳ではないんだが…こんな時に襲撃に遭うと対処しきれないって意味でだからな?


ヴァルとポチの分身は強い衝撃を与えられると維持できなくて消滅してしまうらしいし…。



「勇者様は武術を嗜んでおられるのですか?」


「は、はぁ…並程度には…」



初めの内は、話し掛けられる度に当たり障りの無い無難な言葉を考えて返していたんだが、段々面倒になって来た。


同じ事聞いてくるし…とにかく人数が半端じゃない。


初めは値踏みする様な視線や、質問から始まり…最後に遠回しに「(私と、又は、私の娘と)婚約を結んで下さい」だった。


此処にいる人は皆猫被っているだろうし…性格すら分からない相手と婚約を結ぶなんて、俺にとっては有り得ない話だった。


それだけ、“勇者”の肩書は魅力的なんだろう。


上手く行けば富と地位が手に入る可能性ぐらい容易に想像がつくし…。


ヴァルが測定器に触れる時、魔力を少なく見せる様(それでも一介の魔法使いより遥かに多い)、俺に擬態した分身に指示したらしいが、近衛騎士隊長と死合いした時に剣技見せちゃったからなぁ…。


その所為で高い評価を受けてしまっているらしい。


はぁ…あんな馬鹿な事をするんじゃなかった。


思わず溜息が出かかるが、すんでで留まる。


こんな所で溜息をしたらどうなるか分からない。


溜息を留めたは良いが、表情を崩してしまった事に慌ててポーカーフェイスに戻す。


幸いな事に、ヴァルとポチの分身が俺の負担を減らす様に人をさりげなく遠ざけてくれてたので、誰にも気付かれなかった。


それでも人数が人数なので、俺の方まで来る人はいたんだけどな…。


…適当に返事をしながら、澪羽大丈夫かなと思っていた時、それは起きた。



――発端は、さっきのワインでずぶ濡れになった太ったおっさんだった。



「――き、きゃぁぁぁぁあ!!!」



ばっと振り向くと、そのオッサンの首が宙を舞っていた。


前触れも無く、突然だった。


辺りは悲鳴や怒号の嵐で混乱に陥っていた。


俺はいつ攻撃が来ても対処出来る様に身構え、神経を張り巡らせる。


天界人でない事を祈りながら探りを入れると、近くに神や天使は居なかった。


予想が当たらなかった事にホッとする…が。


相手の気配が無い…?


普通、攻撃をする時、殺気や気配が漏れる。


それは此方にも当てはまる様で、たとえ玄人でも少なからず漏れるらしい。


魔法で消したとしても、魔力が残り、使ったのが分かるそうだ。


それが無いという事は…それこそ神や天使が神力を使わない限りは不可能に近い。


だから安堵は出来ず…俺は、不思議に思いながらも警戒を解かなかった。


体は動かさずに目で辺りを観察する。


先程叫んだ女性は気絶したらしく使用人らしき人に介抱されていた。


そのまま視線を巡らせる。


…ん?


俺は、ある事に気が付いた。


目に感情が無い人がいる…?


死体慣れしていれば冷静さを失わない可能性はある。


だが、今さっき人が殺されたんだから「次は自分かもしれない」と考え、多少は動揺したり怯えるのが普通じゃないか?


この国は騎士などにならない限り、貴族が死体慣れする訳無い気がするんだけどな…。


その割には、表情がうろたえている人は多いが、目は何にも感情を映してない人が多過ぎる。


そんな人に警戒を集中させ、他の人は少しだけ下げた。


突然…気絶しているはずの女性の手が、一瞬ぶれた。


直感が危険だと告げる。


咄嗟に膝から力を抜き、頭の位置を下げた。


 

「……あ、え?」



背後から…柔らかい物に何か鋭利な物が刺さる音と、一拍遅れて悲鳴が聞こえた。


ヤバいな…。


今の攻撃を見た所…敵はツァドキエルより弱いが、油断は出来ない程度。


今ならあの時のツァドキエルと互角に行けそうな気がするけど、敵は力量を隠しているかもしれないし、複数人の可能性もある。


え? 犯人は気絶したフリの女性だけじゃないのかって?


…いや、それだとワインのおっさんの首の飛び方が可笑しくなるんだよな…。


辺りは騒然としていたが、二人目が出た事に沈黙が流れた。



「な…何なのだ、これは…」



ダンディーなおっさんが顔を蒼白させ、よろめきながら此方方面に後退りしている。


俺は近付いてきたそのおっさんの……



「…爪、伸びてますよ」


「………!」



右手首を掴んだ。


オッサンは目を見開き、俺の顔を凝視すると、嫌らしい笑みを浮かべだした。


何だコイツ…と思った瞬間、再度俺の直感が働いた。


手首を俺の反対側に捻る。


一刹那遅れて、爪が更に伸び、壁に突き刺さる。


…おいおい…気が付かなかったら俺、串刺しだったぞ?


というか、何こいつ!?


…とか思っていると…おっさんはドロドロ解け始めた。


いや、おっさんだけじゃない。


死んだフリをしていた女性や、他の人…この場にいる人の半分が嫌らしい笑みを浮かべながら解ける。


余りの気持ち悪さに吐きそうになり、口を押さえる。


…溶けた物は地面に黒い染みを作り、中からは小さな人影が出てきた。


…え。


こいつ、もしかして…。



「上手ク偽装シテイタツモリダッタノダガナ」



カタカタ、と、この類の特有の動きをしながら相手はぎこちなく不気味に笑う。


赤い目を子供の様に爛々と輝かせながら、背中の鎌に手を伸ばしている相手。



「…もしかして首狩人形なのか?」



…それなら気配がしないのも納得できる。


だけど、こいつら…魔法で動いていたんじゃなかったか?


それだったら気がつく筈なんだけどな…。


それに、変身するなんて聞いてないんだが…。



「俺達ヲ買イ取ッタ奴ガ、改造シタカラダ」


「さいですか」



要するにアレースが何かしたって事だな?


……。


…それって、ヤバくね?



「まぁ、大丈夫じゃな。


 ひーふーみ…ざっと50体ばかしならロスト中で更にロストしたわらわでも直ぐに殲滅で出来そうじゃ」


「そうッスね、姉さん。


 最近出番…というか影が薄くなってきてるんで、一暴れして、ストレス発散でもしましょう」


「そうじゃな!!」



あれ?


俺って可笑しくなったのかな…?


目の前に幻覚が…。



「…幻覚じゃないのじゃが」


「現実ッスよ、劉夜さん…地面見てください、魔方陣があるッスよね?」



見下ろすと発光している幾何学模様の魔方陣があった。


ヴァルのではなく、個人的に飛んできたらしい。


如何やら、色々と不安な2人が助っ人に来てくれた様だ。


…何故だろう、実力的には俺より上だから安心できるんだが…物凄く不安になるんだが。


…大丈夫なんだろうか、俺…。

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