第7話 改革②
《no side》
謁見の間には爵位級の貴族が集まり、ワインを片手に談笑していた。
国王は会場には来ておらず、第1王子や第1王女、王妃は隣の豪華な王座を見ては何故だろうかと首を傾げていた。
「妃殿下、ヴァルハート殿下と勇者殿の準備が整った様です」
「通しなさい」
王妃にそう告げたのはクロレンス公爵家…劉夜に尽く一方的虐殺を受けたシュタイナーである。
腹部打撲を鎧で、腕の骨折はガントレットで、顔の蒼痣はヘルメットで隠していた。
本当はこの国の治癒魔法有りで全治3ヶ月の大怪我なのだが、彼は公爵家の意地とプライドで職務に就いていた。
ある意味、ハンカチが何枚あっても足りなくなりそうな話である。
…パーティ会場で1人だけフルプレートアーマは浮きまくっていたりするのだが。
彼が、王妃の脇に立ち、扉の前で合図をすると会場が静まり返った。
勇者が3人いるというのは周知の事実だったのだが、王族と騎士、召使を除いた会場にいる人は実際会った事がない為、勇者の噂は勝手に一人歩きをし始めていたのである。
両サイドに立っている祝典用の騎士服をきた2人の男が合図を受け、扉を開けようと取っ手を掴んだが。
ギィィイ…
それよりも先に扉が開き始めた。
先頭を切ってヴァルハートが1歩踏み出し、その斜め後ろを最近近衛騎士になったという少年同然の青年が付き添う。
本来なら騎士になって日が浅い、その青年の慣れているかの様な優雅な動作に驚くべきなのだろうが、その後ろの3人のインパクトが強すぎた。
1人は、夜の様な黒髪と見透かす様な鋭い眼光の黒目を持った何処か幼さの残る少年。
もう1人は甘いハニーブラウンの髪と優しそうな表情の奥に読み取れない光を宿した黒目の柔和な微笑を湛えている少年。
その2人の間に守られる様にして毛先がふわりとウェーブを描いている黒髪と小動物の様に潤んだ黒目の少女がいた。
1つ1つをとってもバランスのよい端正な顔。
この世の者とは思えない人形の様な整った顔、美しい肌。
人間離れしたあまりの美男美女さに老若男女、全員が目を見開き、息を呑んだ。
その3人が1歩を踏み出す度、貴族達が呆気に取られ、ふらつく様に脇へずれる。
無意識に、本能的に3人の事を畏怖の存在として捉えているのだろうか。
周囲の者、いや、ここにいる全員が、そんな彼等3人から目が離せないでいた。
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《side:劉夜》
悪いな、また俺だ。
…というか、何で此処にいる全員ぽかーんとしてるんだよ…。
そんなに俺の顔って残念?
悪かったな、不細工でさ!!
1歩踏み出す度に後ざする様に下がってく人が殆どなんだが。
あ、ぽっちゃりのおっさん後ろによろけて…こけた。
うわ…後ろにあったワインボトル壊れた…。
というかメ…ゴホンッ、侍女さん…ポカンとしてないで片付けなくて良いのか?
っと…王妃様の前に着いたな。
うん、ヴァルの言った通り、王様はまだいないみたいだ。
「母上、彼らが勇者殿でございます」
一応初対面ではないんだが、あったのは公の場では無かった為、初対面で通す様だ。
ヴァルは王妃様よりも1段低い所からそう告げて、さっと横にずれた。
さりげなくポチもずれている…。
「私は、璃音 桜城。こちらは兄の劉夜、妹の澪羽です。
今回、“勇者”として選ばれました事を誇りに思い、国の為、功績を上げたいと思う次第です」
一般的に適当な当たり障りの無い言葉(笑)で軽い自己紹介と思い(偽)を言った。
璃音が優雅な一例を見せ、俺と澪羽も真似をする様に頭を下げる。
王妃は何故か放心状態だった様で硬直していたが、それも一瞬の事で直ぐに「頭を上げなさい」と声がかかった。
「期待していますわ。 必ずこの国に栄誉を」
その王妃の言葉と共に一斉に歓声が上がる。
余りに後ろの人々が五月蝿く、呆れ顔になるのを隠すのに大変だった。
段から降り、俺達はそそくさと隅に行こうとするのをその辺の人が黙ってみてくれる訳が無かった。
「今年の勇者様はとてもお美しいでございますな」
『マイスター卿…爵位は男爵、ただのせこくて暑苦しくてムサイおっさんだ』
…ヴァル、言うようになったな。
ヴァルにマイスター卿って呼ばれたおっさんはさっき、よろめいてワイン漬けになってたおっさんだった。
服を着替えたのかワインのシミは無い。
早いな…何時の間に?
髪の毛が濡れている様なんだが…魔法で乾かせば良いのに。
「ミウ様でございましたか、私の息子はいかがかな?」
そういって巨た…ゴホンゴホンッ大柄な体をずらすと、ひょろ長い茶髪の男が出てきた。
…いや、ストレートすぎておっさんの欲が駄々漏れ(笑)なんだが。
あれなんだろう。権力狙いだろうなー。
勇者は初めは只のお飾り役職だが、功績挙げてきたら自分のものになる訳だし。
「申し訳ありません。何分、私達は異世界から来たので、此方の礼儀などは判らないもので、ね?」
(お前の息子なんかに僕の澪羽を上げたりするもんか! はっ、さっさと離れてよ)
笑顔で殺気をピンポイントで放ちながらそう返し、呆気に取られたデb…デコボコ親子を無視して、澪羽をそっと隠す様にしながらくるりと踵を返した。
俺には口外がはっきりと聞こえた。
…怖い、怖すぎるんだが。
昔、澪羽が道端で2人組の男にナンパされた時、璃音の奴、口で相手を毒攻めにしたんだよな。
んで、その後、社会的に抹殺したんだよなー。(遠い目)
風の噂によると、2人は精神がおかしくなり、とある病院で日々意味不明な事を呟いているらしい。
…薬、盛ってないよな?
「あ、あの…貴方様は劉夜様ですよね?」
「はい、そうですが…?」
ズカズカと離れていく璃音に慌ててついて行こうとすると、1人の女性が声をかけてきた。
赤色のフワフワしている髪と同色の目。
綺麗よりも可愛いの方が合っているな。
そして彼女…何故か俺を見上げる顔が赤い。
「よ、宜しければ…私と…」
「私と?」
「お、お話し…きゅう」
「きゅう? っておい、大丈夫か!?」
俺と目が合った瞬間目を回して倒れた。
慌てて、手首を掴み、背中を支えて倒れるのを阻止する。
…やっぱ、俺の顔がいけないのか…!?そうなのかっ!?
「ヴァ…ヴァル!この人突然倒れたんだが!?」
「あ、あぁ。ヴォーレット子爵家のご令嬢だな。
…極度の緊張をすると気絶する習性があるらしい」
後半は回りに聞こえない様に教えてくれたのは良いが、何だよその習性!?
目の前の彼女は「うぅ~やばい、やばいよ~お爺様~」とか呟きながら幸せそうに気絶している。
いや、お前の方がやばくね!?と言いたくなったが飲み込んだ。
…とりあえず、ヴァルが呼んだ医療班に部屋へ運んでもらった。
一息ついてふと見ると、璃音は璃音で第1王女に捕まっていた…。
…目的以上にこのパーティの方が疲れる。…主に精神が。
俺は、そう思った。




