第6話 過去⑩
《side:劉夜》
…
………
……………。
背後からピリピリと殺気が漂って来る…。
その殺気を放っている張本人は笑顔を父さんに向けていた。
…まぁ、璃音の奴がキレてなかったら俺がキレてただろうけど。
自分よりも怒っている奴がいると逆に冷静になれるって本当だな…。
ってか、直撃喰らって良く気絶しないな、父さん。
…こんな状況の中、俺が選べる選択肢は、
1.殺気を抑えろと注意する。
2.何も言わず黙っておく。
3.とにかく逃げる。
4.勇気を出して…いざ、腹踊り!
5.試作品を食わせる。
…4はやっぱり無しで!!!
言葉のあやだ、あや!!
1と5は無理だな…こんな空気の中言えないし…。
3は…逃げた瞬間肉塊になる事はほぼ決定事項だろうな。
俺はまだ死にたくない!!
という訳で…
「…………」
無視&無言にする事にした。
殺気を直に浴びてる父さんよ、ドンマイ…俺を責めるなよ?
…さて、画面はボロボロになった澪羽(?)を映していた。
拘束術が解けたのかふらふらと心許ない足で、昔の父さんに近づき…抱き着いた!?
…じゃなくて、もたれ掛かり、弱々しく微笑むと右手を横に伸ばす。
パリーンッ…という音と共に焔、水簾、父さんの体が一瞬ふらついた。
『………開け、【天界の扉】…』
『…っ!? しまった!!』
次の瞬間、4人の姿が消えた。
油断していた猪が近付こうとするも、遅かった。
『…ちっ、動きが鈍いと思ったら』
唱えてやがりましたか、と視線を斜めにして舌打ちをした。
『…まあ、良い。 若干逃した奴がいるが問題は無い。 4人が死ねば、な』
空中で浮遊しているタルタロスが口角を上げた。
猪は、ふわりと浮き上がると高速で飛び、タルタロスの隣で止まる。
来るりと向き直った先には…璃音(?)がいた…。
笑おうとしているらしいが失敗して苦笑いになってる奴が。
何処まで笑顔を作りたいんだよ…。
『…計算通り、だね』
『全部がか』
『そうだよ、あの老人がフェイクなのは始めから知っていたよ。
それに僕とレーファが死ぬ事は端から前提だし、動揺したのも風も油断させる為』
あんまり意味無かったっぽいけどね、と肩を竦めた。
…強風を起こした原因は璃音(?)らしい。
『…風の必要性が全くもって理解できないが、な』
…璃音(?)、敵に突っ込まれてるぞ…。
『……さぁ、それはどうだろうね?』
と言いながらちらりと猪を見てきた。
…いや、猪越しにこちらを見たんじゃないかと思った。
なぜなら…悪戯っ子の様に輝いた双眼を見て、父さんが冷や汗をかいたから。
『まあ良い。貴様と長さえ殺せば後はどうとでもなる』
『…世の中そんなに上手くとでも?』
『行く。必ずな』
『…うわ、凄い自信だね』
半分呆れ返った表情の璃音(?)はふぅ…と息をついた。
『…そんな余裕、直ぐ無くなるよ』
『…何だと?』
『君がいくら強くなったからって元々僕より下なのに、ここまで戦闘力に差が出るとでも?
…自分が手に入れた力がどれぐらいか計りミスをしたね。
まぁ、計れた所で君達の前で本気を出した事なんて無いから無意味だけど』
『…今更何を言っている…っ!?』
璃音は黒い笑みを浮かべると左手を掲げた。
微かに手の平が白く輝いている。
『じゃあね…また会いに来るよ』
右手を振ると、光は猪の視界を包み込み、ホワイトアウトした。
…光が消え、目が慣れた頃には、璃音(?)は消えていた。
『時間稼ぎ…でしたか』
『…吸収されない様に死んだ奴と自らの体を消滅させた様だな』
『態々…大層な事ですね』
『……………………』
『…?どうかなさいましたか、タルタロス様』
『………クククッ、そういう事か…面白い…!…最高だ』
タルタロスはさも可笑しそうに笑うと自分の着ている服を掴み、破った。
鍛え抜かれた上半身が露になる。
『…………これは…!』
そこには左肩から胸辺りにかけて白い複雑な模様が入っていた。
『…ククッ、これが1番の目的だったらしい。不完全な所為で半減までしか掛かっていないが』
『……封印の類ですか。厄介ですね…』
『問題無い。力が半減していようが、長一人程度手助けが無くとも軽く捻り潰せる。
お前は、アレを集めて来い』
『御意』
その返事と共に画面が黒くなった。
「…終わりか?」
「そうだよ、こっから先はただの石集めだったし、途中から城の宰相やって、王様に入れ知恵して戦争起こそうと吹っ掛けてるだけだから」
…むしろ、当初の目的はそっちじゃなかったか?
ポイントがいつの間にかズレたな…。
「…で?」
璃音はパソコンをパタンと閉じ、水晶諸とも亜空間内に放り投げると今度は正面から父さん達と顔を合わせた。
「…すまない、ボクがあの時油断したばかりに…」
「いや、そっちじゃない」
「…は?」
「何で今まで秘密にしていたかって事だよ、父さん?」
…所何やら父さんは璃音が澪羽(?)を殺す原因を作った事に対して怒っていると思ったらしい。
…あのシスコンっぷりを見ればそう思うか。
「それは、お前達に普通に人として生活して欲しかった訳で…」
「その割には僕と兄さんに重労働させたよね。 …父さんだって分かってたんじゃないの?」
「う…」
「さーて、隅から隅まで吐いてもらうよー?何を使ってでも、ね?」
「わ、分かったから指を鳴らしながら近付くなっ!全部言うから、全部っ!!」
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…父さんは顔を引き攣らせながら話し始めた。
ついでに巻き込まれた焔と水簾も補足程度に話す。
要約すると、僕達はさっきの三人の転生者で(マジなのかよ…)、あいつ等にばれないように四神+1に力と記憶その他諸々を封印しているとか。
四神って言うのは歴史の教科書とかに載っている朱雀、青龍、白虎、玄武の事。
焔と水簾はこの朱雀と青龍に当て嵌まる。
因みに、焔は別名アマテラス等、水簾はスサノオ等と呼ばれているらしい。
日本で伝えられているあの神話は“暇だったから二人で日本に来て遊んでいたらちょっとした事で口論に発展し、喧嘩をしていたのを見た人が勘違いをして尾鰭が大量に付いた”らしい。
だからその名前で呼ばれるのはある意味嫌がらせなんだとか。
…自業自得だろ、それ…。




