第6話 過去⑨
《side:璃音》
…どうもー、棒読みになるぐらいシルファリオンとは似てないと思いたい璃音です。
腰痛とか無いでしょー…。
老人か!って突っ込もうと思ったけれど、天界で3位の高年齢だって言ってたよね。
…突っ込めないじゃんか…。
澪羽が「先生ー」と、片手を上げて、焔に視線を送る。
それに気が付いた焔は、「はい澪羽」と袖口から扇子を出し澪羽を指して促した。
いや、指したというより、焔自身は扇子をマイクに見立ててるのかも…。
「焔ちゃん、そういえば彼らって何歳だったの?」
「うーん、すまぬ…わからぬのじゃ。 信憑性は無いが億近く生きていたという噂があるのぅ」
親しい人でも噂しか知らないんだねー。
神の10万歳で10歳に相当するんだから億って…
でも、本当だったら凄いねーそれ。
「御主達も一介の神ぐらいには寿命が延びると思うぞ?」
…何か聞こえたけれど、気のせいって事にしておこう。
さて、そんなどうでも良い事は置いといて、如何やら腰痛かなと言っていたのは強がりだったらしいんだ。
先程の一撃は地割れが起きるほどの余波があったよね?
見えなかったから推測に過ぎないんだけど、多分アレは空中にも拡がっていた様で、シルファリオンは避けた筈だったんだけど脇腹を掠っちゃったらしいんだよね。
服が白かったらすぐに気付いたと思うんだけど、何せ(他人の)血で衣服が染まっていたから判り難かった。
押さえた部分から血が溢れていたし、服がそこだけ破れていたから気が付けたんだけど。
出血量はそれ程ではないから、傷は浅いのが救いかな。
…深くても浅くても、命に危険が有るのは変わらないんだけど。
『…それだけでも立っているのがやっとな程の激痛だというのに…何秒耐えられるだろうな』
『何秒とは言わずに、いくらでも耐えてみせるさ。…腰痛だし』
……いや、汗をダラダラ流しながら無理矢理笑顔を作っても。
シルファリオン、君はどれだけ意地っ張りなんだい…。
確かに、僕もたまに意地を張るけれどここまでじゃないし、言い訳が腰痛って…。
もっと、良いのは無かったのかな。
シルファリオンはキッと顔の表情を引き締めると地面を蹴り、駆け出した。
手に持った双剣を融合させて振り上げるとそこから真空波が放たれる。
タルタロスはやや驚き気味な表情をしながらひょいっと避けた。
『…ほう、動けるのか。 中々すば…』
『一々五月蝿いよ!!どれだけ僕を格下に見てるの君はっ!』
「あ、キレてる…」
「…璃音が声を荒げる所を見た事が無いから新鮮だな」
「…あれは僕じゃないよ?」
「…俺の時は散々似てると…」
「気のせいだよ」
…ゴホンっ
えーっと、シルファリオンはそのまま再度真空波を放つ。
タルタロスは今度は避けず、斧を軽く横に真一文字に振って、風圧で相殺した。
シルファリオンはそれを見て舌打ちし、地面を蹴り今度は走るのでは無く、上空に浮かんだ。
ズカァァァァン!!!
「「「「ええええーっ!?」」」」
次の瞬間、タルタロスが斧を振った方向に扇状に地面が吹っ飛んだ。
タルタロスに近い場所は10メートル程、シルファリオンが居た場所もかなり距離が離れていたのにも関わらず深さ数メートル剔れていた。
…何でただの素振りで地面があんなのになるのかな。
「焔ちゃん、あれって何か力を使ってるんだよね?」
「…いや、それが使ってないのじゃよ。
本人はきっと“今、草野球をやっている。 こちらが攻撃に回った。次の次は自分の番…そうだ、暇だからバッターボックスに立つ前に肩慣らしの素振りでもするか。よいしょっと…”程度なんじゃろうな」
「マジでっ!?」
「マジじゃ」
澪羽が問うと焔は声真似をしているのか“ ”の中を低くした。
…焔、微妙にリアルな設定ありがとう。
お陰で微妙にタルタロスのイメージがガラガラ音をたてて崩れたよ。
思わず“とある河川の土手下の漫画などに良く出てくるちょっとした広場でベースを置いただけの即席競技場を作りラフな格好をしたタルタロスが安物の木製バットを片手に素振りをする”という、神なのに何とも庶民的な光景が浮かんだんだけど…。
…僕は別に悪くないよね?
……えーつまり、全然本気じゃないって事で良いのかな。
無茶苦茶怖いなぁそれ…。
「もう、強すぎて逆にネタ攻撃だねー…」
「ただの素振りで如何してあーなるんだ…」
…うん、理論とかを考えるのは止めよう。
今考えると終わるまでまた徹夜しかねないしね…。
『なんていう馬鹿力…』
空中に浮かび、肩で息をしている。
激痛が走るのか表情を歪め唇をギリッと噛んだ。
強く噛み過ぎたのかつぅ…と血が滴り落ちる。
…突如、視界がぶれた。
アレースが移動したらしい。
目の前では数人動いているみたいなんだけれど、視界がまだぶれていて判らない。
視界が徐々にクリアになっていく…
『…油断したな、いや…限界を超えた状態で頭が回らなかったのか』
『…何を…ッ!!』
遠くで息を呑む様な音が聞こえた。
クリアになった視界にはアレースが右手を前に翳して指先をその誰かに向けていた。
その誰かは……―――
『………かはっ…』
黒尽の人に光の糸で身動きが取れない様に拘束され、巫女服の人に扇子で八つ裂きにされ、蒼い着物を着た人に殴り付けられた……レーファだった。
「「「「…………」」」」
「……すまぬ」
「………ごめんなさいッス…」
いつの間にか僕の隣に立っていた水簾と焔が僕達3人に深々と頭を下げ謝ってきた。
ポチも急に温度が下がった空気に驚いたのか顔を上げ、謝っている2人を凝視している。
そして、もう一人頭を下げた人がいた。
「…………すまない」
……そうだろうと思ってはいたけどね?
僕は再度パソコンの画面をちらりと見遣る。
黒尽の人の外套に付いているフードが突然の強風によって落ちた。
長いけれど見慣れた黒髪、見慣れた顔。
…ただ一つだけ違う部分はあるけれど。
気を緩めると怒りで顔が無表情になりそうになる所を無理矢理口角を上げ、笑みを作ってからゆっくりと振り返る。
「…はい、動画が終わり次第後でじーーーっくりとお話を聴かせてもらうからね? ……父さん?」
顔を上げた父さんの顔は今までに見た事が無いぐらい真っ青だった。