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龍と獅子と猫の物語  作者: Neight
第1章 ウェスタリア王国
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第5話 誘拐⑦

《side:ヴァル》


「こんばんわ~。先ほど振りですねぇ~」



そう言って屋敷の玄関口から出てきたのは、ジェイルだった。


私は彼の事を信用していた。


物心つくときから城に勤めていた為、私は困った事がある度に相談に乗ってもらっていたのだから。



「お前だったのか…!」



いくら可能性があったからとはいえ…正直信じられなかった。



「ええ、バイトでね~。…今頃彼女はどうなってるんでしょうかねぇ~?」


「き…貴様っ…!!」



私は剣を片手に風の加速魔法をかけ、一気に接近して切りかかる。


私は水の派生型氷属性の上級の氷雪なのだが、それはあくまで自分の得意分野(・・・・)という事だけだ。


誰でも他属性魔法は使える。


ただ、何十倍も扱うのが難しいだけだ。


特に正反対の火属性は難しく、まだ最下級しか覚えていない…。


…と言ってもこの事はあの方の“受け売り”なのだが。


この事を知っているのは我国…いや、この4大陸にいる人の中で知っている人はかなり少ないのかもしれない。


ジェイルは私の剣をかわすと衝撃波を放ってきた。


すぐさま同等の衝撃波を放ち相殺しようとしたのだが。



「…っぅ!」



ジェイルの方が一枚上手だった為、軽く吹っ飛びかけた。


剣を地面に斜めに突き立てて堪える。


吹っ飛ばされると予想したらしく、私が他属性の魔法を使い相殺しようとした事に驚いている様だ。


それも一瞬の様で直ぐに微笑しだした。


…ジェイルとは長年の付き合いではあるのだが、私が8歳の時に彼は解任されているので、そこから先はたまに会う程度。


昔の私はかなり短気だった為、今の私の行動は怒りで我を忘れて切りかかったと思っている様だ。


…昔と同じだとは思うな。


確かに彼が誘拐犯だと言うことには衝撃を受けたが、それだけ(・・・・)だ。


確かにかなり腹立たしいが、我を忘れていると余計状況が悪化する。


それに…感情で左右されていては総隊長をしていても部下が付いてこない。


彼とは幼い頃に手合わせをして貰った事があったが、魔術士なのにも関わらず魔法は勿論、武術まで全く歯が立たなかった。


今でも通用するかどうかわからない。


しかし、私は真っ向から対峙する気は更々ない。


先ほど無闇矢鱈に向かったのは…彼の服に魔方陣を刻み付けるためだ。


巧妙に刻まれた呪符に魔法をかけて不可視にして投げ、布と同化させた。


表情に出すとばれかねないので、唇を噛み、悔しそうな表情をしておく。



「…本当に御主わらわ達に敵対すると見て良いのか?……大天使“ミカエル”よ」



ホムラが底冷えする様な無表情でジェイルに尋ねた。


初めて聞く声の低さに…少しばかり畏怖を覚えた。



「ふふっ…さぁ、どうでしょうねぇ? ……太陽神“天照大御神(アマテラスオオミカミ)”様?」



…!?


どういう事だ!?


ジェイルがあの大天使“ミカエル”だと!?


…いや、それだとあそこまで強いという理由が説明付く。


ホムラの本名は“アマテラスオオミカミ”と言うらしい…分からないが高位の神なのだろうか。



「…で、“裏切り者”だったとして…どうするんですかぁ?」


「………消す」



袖口に手を入れると真紅の鉄扇を出した。


シャキンと心地よい金属の音がして開き、先が鋭い刃物状になっている部分が露になった。



「【花鳥風月 風之章:風切】!」



鉄扇を振ると、弧を描いた斬撃がジェイル…いや、ミカエルに無数に襲い掛かる。


彼は、目の前に即座に結界を張った。


3回目の斬撃が結界に当たった時、罅が入る。


それに気が付くと結界を張るのを止め、後ろに跳躍してかわした。



「…っぅ…やっぱり高位神には中々かなわないか…」



それでも斬撃が掠った様で、抑えている左腕からポタポタとかなり出血していた。



「だけど…2人だったらどうなのかなぁ?」


「えへへへへぇ~」


「「「「「!?」」」」」



緩い声が聞こえてきたと思っていると、目の前に鋭い短剣の様な物が無数に振ってきた。


頬や腕に掠めたがギリギリでかわす。


良く見ると、それはナイフではなく細長く硬い純白な羽だった。



「こんな時に…“ツァドキエル”まで出てくるじゃと…!?」



止んだ頃に声のする方を向くとそこには…小柄な少女がいた。


それだけだったらまだ良いのだが…羽根が生えている(・・・・・)のだ…背中に。


ミカエルは背中に生えていない為、信憑性が無かったが。


更に…



さく さく さく さく さく さく



彼女はこの場の緊張感を木っ端微塵にするかの様に赤いカップの様な物に入っているお菓子らしきものを高速で咀嚼していた。



「さっきから有名な天使が出てくるわ、神が出てくるわで意味分からん…」


「いや、それ否定すると魔法とかまで否定する羽目になって面倒だから良いとして…」


「「何で“じゃが●こ”!?」」


「“じゃが●こ”って何ですか…?」



天使とかは良いのか…。


それ程まであの菓子は重要なのか?


…良く分からんな…。



「え? だってぇ~さくっ、おいしいんだもん~さくっ、関係ないじゃん~さくっ」


「ツァドちゃん、やる気あるの…?」


「…別に、詠唱破棄すれば良いだけだから問題ないよぉ?…さくっ」



めんどくさそうな表情をするとプイッとそっぽを向き、また咀嚼し始めた。



「ボク、ロリババァ相手にする気さらさら無いから~さくっ、ミカりん相手よろしくぅ~さくっ」



…ぴくっ



ホムラの口許が引きつった。



「結局手伝ってくれないんだ…」


「下級天使達あげるからさぁ~さくっ、頑張ってぇ~?」


「…はいはい」


「…ふふふふふ…? …劉夜達…わらわは我慢してそこの“海藻”とザコを相手しているから…“チビ”を宜しくのぅ…?」


「誰が“海藻”だぁ…!?」


「“チビ”じゃないっ!!」



ホムラ…余計怒らせて如何するんだ…。


ホムラはそのままミカエルに攻撃を始めた。


“チビ”と呼ばれたツァドキエルは、手に持っていたカップを落とし地団駄踏みながら膨れっ面をしていたが、怒っていても仕方がないと思ったのか暫く深呼吸をして息が整うと、こちらを見据えた。



「…あいつムカつくけど、ミカりんに任せちゃったしぃ…お兄さん達宜しくねぇ…?」



そういうとツァドキエルはその容姿に見合わない…不気味な微笑をした。

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