第5話 誘拐②
《side:リカ》
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今、水簾の背中に乗って移動中。
うん、空は気持ち良いな~。
…え? 来ない予定だったんじゃないのかって?
それを説明するには2日前から説明しないといけないね」
「リカ…後半漏れてるし、誰に説明するんだい…?」
「え? あらやだ~。 状況整理よ、多分」
着くまで時間があるし…話しましょうか。
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─2日前─
ひーくんが例の物を破った。
これは魔法陣が刻まれている呪符で、遠くにいても相手を思いながら破る事によって、対象の目の前に移転用の魔方陣が出現する特殊な物。
普通市場だと1枚数十万するのだけど、ひーくんお手製だからノーコスト。
直に目の前にも魔方陣が出現し、1人の人物が現れた。
巫女服の上に紅色の十二単を羽織い、黒髪と金色の目を持つ幼女。
…幼女…?
「あれ…焔…だよね?」
「そうじゃよ、焔じゃ!!」
「小さくなったの…?」
そう、目の前には幼女になった焔ちゃんがいたの。
神は生まれた時は決して赤ちゃんで生まれてくるとは限らない。
お爺ちゃんで生まれてくる人もいる…可哀そうね(笑)
前は18ぐらいの見た目だった筈なのに、今の焔はどう見ても10歳前後だった。
「う~ん、先ほど神力使いすぎて体維持がし難くなったから、行動に支障がない程度に縮めたのじゃ。
多分暫くはこの状態のままじゃな~」
腕を組んで頷いている焔ちゃん。
思わず撫でると気持ち良さそうに目を細めた。
「で、何でわらわを呼んだのじゃ?」
テーブルの上の劉夜が作った朝食に気がついたらしく、ひーくんに取ってとせがんだ。
ひーくんは「しょうがないなあ」と苦笑しながらお皿とフォークを取って渡し、汚れないように膝にタオルをかける。
「それがね~ボクの子供達があっちに召喚されちゃったらしいんだ」
「へ?」
焔ちゃんが驚いて手に持っていたフォークを落とした。
詳しく説明すると両手を頬に当てながら考え出す。
「むぅ…拙い事になったのぅ…分かった、わらわが助けに行こうかの?」
「焔、ありがとう!」
「うむ! おぬしらの為ならいつでも協力するからなっ! 水簾にも連絡入れておこうかの」
そういうと焔ちゃんは袖口からケータイを取り出し、メールを送り始めた。
…え?
神様社会にもケータイあるんだよ?
ふむふむ頷いたり、う~んと言ったりしていたけれど暫くすると終わったのかケータイをパタンとたたみ、こちらを振り返った。
「水簾は今仕事が入っておるから明日に向かうと言っておったぞ。 わらわは先に向かっておこうかの~」
「うん、行ってらっしゃい」
「ああ、気をつけてな~」
焔ちゃんは立ち上がるとその場に魔方陣を組み、移転した。
「明日には着いてるんじゃないか?」
私達がいる世界や数多にある異世界は時間に対する考え方が違うだけで過ぎ方は全く同じ。
こっちにとって1日は向こうの1日と同じなのだから。
でも、異界と異界の間にある“空間の狭間”は私達がいる世界等とは違うの。
体感時間で1分でも通り抜けた先の世界では1日だったり、年単位の時もある。
そのズレを無くすにはゲートを開いた人の力量がかかってくるの。
焔の場合は1日前後ほどずれそうね。
因みにうまくいって1日ね?
召喚の場合は解明はされていないのだけど初心者でも比較的時間のズレが無くて済む。
ただ、あまり使ったこ事が無い様な人が使うと、召喚対象が“空間の狭間”に取り残されて一生出れなくなったりもするのだから、この魔法の熟練度は時間のズレではなく安全性に関わってくるらしいの。
魔法はまだまだ解明されてない事が多いから…何ともいえないのだけど。
「そうね、あの子達も今日中に着くだろうし、焔や水簾も行ってくれるみたいだから大丈夫ね」
テーブルに置いてあったピアスを付けながらそう言うと、ひーくんは頷いた。
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─翌日─
今日は有休を取って会社を休んだ。
私達はリビングで呪符や魔法具を作っていたの。
焔ちゃんに向こうからこれらを召喚して使ってもらおうと思ったから。
私達は他の異世界には渡れるのだけど、あの世界へは渡れなくなっちゃってるから助けに行きたくても行けないの…。
正確には【ゲート】が開けないんだけれど。
焔ちゃんが使いそうな銃、扇子、着物を2人で作った。
彼女が着ている十二単は特に傑作で一重に一種類ずつ攻撃無効にするという…多分最強の防具。
剣、斧、槍、鎌、棍、飛道具、爆弾の7種類の武器と気、忍術、魔法、神力、妖術の5種類を防げる。
それ以外は布当然の装備となってしまう為、ただのお飾りになっちゃうのだけどね。
袖には空間魔法がかけてあるので、質量無視して物を仕舞える様になっているし、相当なモノだと思う。
『聞こえるかの~?』
不意に焔ちゃんから念話が届いた。
ピアスは2つしかなかった為、魔力だと届かないから神力を使って会話する。
『ああ、聞こえるよ』
『ついたの?』
『そうなのじゃ! よく分からんがリュウヤ達はウェスタリアに召喚されたらしいぞ~』
『やっぱりな…そろそろ次をやりだすだろうと思ってたんだよ』
『謁見の間という所に複数の気配が集まっておるから、多分そこにおるんじゃろうな』
『なるほどね~、焔ちゃん、あの子達が泊まっている客室分かる?』
『分かるぞ~』
『そこで待機しておいて貰えるかい?』
『わかったのじゃ!』
『じゃあ、また後で念話するけれど、一旦切っても良いかな~?』
『じゃあね、焔ちゃん~』
『じゃあの~』
ひーくんは一旦念話を切った。
私もそれに合わせたのだけど…
「ひーくん、どうしたの?」
「…何者かは知らないけど…如何やら“招かざる客人”が来たらしくてね? 念話途中で切らせてもらった」
それも複数…と言ったひーくんは糸目を薄ら開き…真剣な顔をしていたの。
私より気配に関しては長けている為、私はそれを言われてから数秒後に気がついた。
「誰だい? そこにいるのは気がついてるんだが?」
突然ひーくんが殺気を放ちながら振り向き、左斜め上の虚空を睨み付けた。
「…ありゃ~? ばれちゃいましたぁ? 巧妙に殺気隠したつもりだったのに~?」
何が可笑しいのかへらへら笑いながら出てきたのは─…
「な…っ!?」
「あなたは…!?」
「そうだよ? ボクさぁ~ 忘れちゃったのかな~?」
“智天使”ツァドキエルだったの…。