第4話 地下②
《side:劉夜》
「私達が今回起そうとしたのは…20年前がきっかけなのよ。
20年前─…私はヴァルの乳母をしていてね、彼をお世話していたの。
貴方達リシェラ様とジェネル様(ヴァルの兄と姉)を見たでしょう?
お二人は正室のユシア王妃の血を引いているのだけどヴァルは違ってね、私の妹のミレアーナ…つまり側室の血を引いているの」
へぇ、ヴァルは高飛車姫と何処と無く貧弱で性格だけは強そうな王子とは異母兄弟だったのか。
道理であんまり似てなかったんだな。
で、サラさんはヴァルのお母さんの姉でヴァルにとっては叔母さん兼乳母さんだった訳か。
「20年前っていったら当時ヴァル8歳だったわね。
その時に貴方達と同じように異世界からとある女性が召喚された。 もちろん貴方達と同じ目的で」
…ん?ちょっと待てよ…? ってことはヴァルは28!?
そういえば…サラさんどう見ても20台前半…!?
年齢合わないんだが!?
「すいません、話を折る様で申し訳ありませんが…こちらの人間の寿命は?」
おお、ナイス璃音。
俺が質問する前にしてくれた。
「魔力量、気等によって寿命は変化するわ。 多い人は18~20歳ぐらいから急激に遅くなるの。
平均寿命としてはそうね…100歳ぐらいね。 獣人や魔人は元々多いからこちらは平均1000年ぐらいかしら?
私とミレアーナは巫女をしていたから魔力量が高くて、それをしっかり受け継いだヴァルも必然的に寿命は長いわ。 最低1000年は生きるわね」
「…えー、1年間は何日でしょうか…?」
「うん? 730日よ?」
1年間が2倍だと!?
日本人の平均寿命の約2.5倍だと!?
凄いなこの世界の寿命。
『魔力量、気、その他諸々全部寿命に関わってくるぞ! 凄いのじゃ、わらわと同じく不老じゃ! 不死かどうかは知らぬがな』
何か聞こえた気がするが気のせいだろう!!
「…何故か落ち込んでるけれど、話を戻すわよ?
召喚された彼女は勇者として祭り上げられたわ。 私とミレアーナは召喚事態反対だったし、ましてや勇者なんてやらせたくなかったの。
でも…側室と乳母の発言力は低くて…通らなかったのよ。
彼女に警告をして、逃げてもらう様に言ったけれど「大丈夫、心配しないで」と言ってたわ…。
国王様はホークとジェイルを護衛として3人だけで行かせてしまったの」
元騎士隊長さんと元宮廷魔道士隊長さんのこの2人が護衛だったのか。
というか護衛2人って少なくないか…?
「旅の途中、各国を巡り徐々に着いてくる人が多くなって行ったみたいよ。
1年掛かって実力が着き、魔国に着いたらしいわ」
1年…つまり2年か。
2年で国に対峙できる実力がついたのか? …凄いな、というかはっきり言って異常だ。
「城には結界が張ってあって、勇者ともう1人しか通れなかったのよ。
そのもう1人が謎で分かってない事が多いの。
常時フードを目深に被っていた様でホークとジェイルすら顔を知らないのよ」
それ、どれだけ対人恐怖症?
それとも、とんでもない大罪人だったり(笑)
「その2人で城に行って…護衛や仲間達が待っているとフードを被った人だけが出てきて、戦闘していたら突如“空間の歪”が発生して魔王と勇者が飲み込まれたと言ってきたの。
彼らは慌てて王国に戻ってきて、報告をしたわ。
それは直に私達姉妹の耳にも入ってきて…私達はもう勇者を2度と呼ばせたくないと思ったの。
だから講義したのだけど…全く聞いてもらえなかったわ。
だけどある日、事件は起こったわ。
国王は突然ミレアーナを剣で刺したの…ヴァルの目の前で。
その怪我の所為でミレアーナは助からなかったわ…。
確かにお金と欲の塊ではあったけれど…罪の無い人を殺す事なんてしなかったわ。
それくらい国王の様子は可笑しかった。
国王は刺した後に突然何かに怯えだして、当時王城で働いていた私達を解雇したの」
フードは怪しい気もするけど…それ以上に気になってるのは国王の行動。
何故ヴァルの母さんを刺して、使用人を解雇したんだ?
理由が謎過ぎる。
璃音も頭を抱えているし…どういう事なんだ?
「…まあ、そういう訳なんだが、何故か私は何もされずにサラや使用人が周囲からいなくなってしまった以外は何時も通りだった。
暫くは何もする事が出来ずに閉じこもってばかりいたのだが…ある日城を抜け出した時、サラに再開し…改革をしようと決めたんだ。
母上は日頃から“戦争の無い、平和で平等な世界にしたい”“異世界の人をたがが国の我侭で巻き込みたくない”と言っていた。
それを実現したいと私達は内乱を起そうとしている…仕方ないとはいえ、皮肉なものだな」
ヴァルは自傷気味に笑った。
本当は起したくないのだろう。
だけどいつまで経ってもこの国は変わらないし、むしろ犠牲者が増えるばかりになってしまう。
…国王の話を聞いてると、如何考えても話し合いが成立しそうにないしな。
─…どちらにせよ、俺はヴァルに協力しようと心の中でそう決めた。