第2話 能力④
《side:璃音》
「このふぁふた、おいひいね~」(このパスタ、美味しいね~)
「ひゃな!! このふぇふひょうなあふへんへ、ふぁいふぉうひゃ!」(じゃな!! この絶妙なアルデンテ、最高じゃ!)
「おっ、本当か? 久しぶりに手打ちで作ったからどうかなとは思ったけれどよかった。
フェデリーニ(約1.4mm)なんだけれどどう?」
「これぐらいの太さの方が絡みやすくていいかもしれないね~。パスタメーカー無いからなんともいえないけれど。
…って澪羽、焔、口の中食べ切ってから話す事…下品だよ? というか、何言ってるのか分からない…」
慌てて2人は口の中を無くそうと飲み込もうとする。
というか、兄さん何言ってるかわかったの…?
表情からして、この朝食のパスタを絶賛してるのかな。
このパスタ、本当に美味しい。
手打ちパスタは初めて食べるけれど、イタリアの一般家庭ではよく食べるらしい。
味付けはシンプルなペペロンチーノなんだけれど、これはシンプルだからこそ作る人の腕で美味しさが左右される。
あ、因みにペペロンチーノはニンニク、オリーブオイル、唐辛子(+パスタの茹で汁)をソースとして使うパスタの事だよ。
前僕が作ったときは何故か真っ黒になったし…なんでだろう…いや、そもそもこの間作ったサラダだって、お皿にレタス載せて、ゴマドレかけて…いつの間にか真っ黒になってたんだよね…。
レシピ通りに作ったし…それにカレーの時なんt…
…ごほんっ、閑話休題、
今は朝食を食べている。
昨日兄さんがストレス発散という名の苛め…拷問?をしている間、ヴァルに頼んで僕達の客室のメインルームにキッチンつけて貰えるように頼んだ。
理由としては、あそこの厨房に染み付いている臭いがやばかったから。
消臭剤あるけれど、とても勝てそうじゃないよ、本当に…
だけど、まさか朝起きたらメインルームに立派なキッチンが出来ているとは思わなかった。
食材を運んできてもらい、兄さんがパスタを作ったんだよ。
「うぉぉぉおっ! こんな麺、初めて食べましたぞっ!」
「…! 前のフレンチトーストもいいが、これも…」
「…何故この料理が…!?」
誰が何と言ったか多分予想できるんじゃないかな?
兄さんは料理長とヴァルに頼まれてたからいいとして…何でポチまでいるの…?
聞いてみると本人曰くいい匂いがしたから予定時間よりも早く着ちゃったらしい。
どれだけ凄い嗅覚してるのかな…
暫くワイワイと食べた後、料理長には帰ってもらった。
「焔、結界を」
「了解じゃ!」
直に不可視の結界が張られる。
今まで焔は料理長が居た為認識阻害を張っていたらしく、突然現れた焔を見てポチが指を刺して口をパクパクしている。
…そっと、鞄からデジカメを取り出し、撮った。
「あ…え…?」
「わらわは焔、神様じゃ! あ、劉夜おかわりっ!」
白いナプキンをソースで汚し、両手にフォークを持って劉夜におかわりを催促している姿はどう見ても神様ではない…幼児だし。
他のみんなは食べ終わっているっていうのに焔は15皿目に突入した。
「とりあえず進まないから戻ってきてくれ…」
「…はっ!?」
今まで空気になっていたヴァルが、頭を抱えながらポチの肩をポンと叩いた。
…いや、澪羽、ポチが戻ってこないからって兜外すのはどうかと思うよ?
兄さんもドサクサに紛れて澪羽と一緒に耳触ってるし…くっ…尻尾を触ろうかな…
しゃがんで手を尻尾の方に伸ばしたらヴァルに咳払いされた…。
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「…という訳なんだけれど、昨日ポチは僕達の殺気が当たっても他の人に比べて耐えていた事、悪いとは思ったけれど、澪羽の能力で君の心を見て、この国を良く思っていなかったり…などの理由で君を此方に引き込みたいんだけど、どうかな?」
ヴァル…説明を始めるとか言っておきながら僕に説明させるのはどうかと思うよ?
真面目でめんどくさがりって結構矛盾してると思うんだけどな~…。
心を見たという言葉に顔が真っ青になっていたけれど、真面目な顔で頷いてくれた。
「僕は…あの方との約束を守るためにこの国に来ました。 喜んで協力させて下さい!」
あの人が気になったけれど、まだ聞かない方が良いだろうな。
何となくだけど、そう思った。
「ところで…昨日の試合は凄かったですね!
僕、Sランクなのに間接外しと骨折させた時の手捌き見えませんでしたし、最後の剣を粉砕するなんて芸当、出来ませんよ?」
Sランクという事は全部のスキル平均が最低S-って事だね…
あれ?という事は4人の内の1人?
でも兄さんは…
「へ? そうか? …あれ、2割ぐらいしか本気出してないんだけどな…」
お世辞だと思ったらしく、頭を描きながら照れだした…(笑)
「…教える事なんて何も無いじゃないか…ポチ、今夜…付き合ってくれないか…」
「承知しました…極上のお酒を大量にご用意いたします…」
ヴァルとポチは、ははは…と半目で何も移してない瞳で乾いた笑いをし始めちゃったよ…。
不気味に笑っている二人を放置して、僕は鞄の中からピアスを取り出した。
ポチを我に戻させた後、ピアスを渡す。
説明に怯えていたけれど、恐怖より興味が勝った様で普通に付けてくれた。
ヴァルはどうやら彼を側近にする事にしたみたいだね。
今までに何回かそういう事も有った様で別に異例ではないとか。
ポチは時計を見るとそろそろ戻らないと殺されると顔を青くしながら帰っていった。
…上司(?)の人に手続書を出してなかったらしい。
ドンマイだよね~。
「ん~今から何しよう?」
「魔法とか気を練習するのはどう?」
「そうだな…何が使えるか知りたいし…」
「それならわらわが教えるぞっ!」
「それなら裏の草原で練習した方が良さそうじゃないか? …色々と壊しそうだからな」
ヴァルは遠い眼をしながら溜息交じりに言ったけど…気のせいだね、うん。
兄さんが弁当の用意をして、僕達は裏の草原に向かった。