第2話 能力③
《side:劉夜》
「…本当にこんなのが強いのですかねぇ?」
「シュタイナー!」
相手を見下す眼差しが頭にきた。
ここの王に唯でさえ濁った目で見下されたからイラついていたというのに。
訳分かんない状況で中世な異世界に飛ばされ…多分ストレスが溜まってたんだろう。
まあ、それもあるが…澪羽を嫌らしく見てたのに気がついて…俺の堪忍袋が見事に切れたのが8割か。
「…そんなに気になるのなら俺と死合い、してみますか?」
「是非お手合わせをしたいものですなぁ」
相手の力量も測れない様なこんな奴に俺が負ける訳がない。
満心は良くない事は知ってるが、どう考えてもこいつには勝てるだろう。
確かに筋肉はあるから鍛えている様だが…動きは鈍そうだし、多分公爵家が賄賂とか出したんじゃないのかと思う。
そう思う程、階級的に見て1つしか変わらない近衛騎士隊長と総隊長の力量差は歴然だった。
璃音が念話で俺を呼んだ声には同意を含んでいたし、澪羽もムカついたのか、殺さない程度にと言った時は、笑みが一瞬黒くなったからな。
璃音は普段、隠密行動をしてたり、笑顔の仮面を貼り付けてるのだが…今は歪んだ冷ややかな微笑と突き刺す様な殺気を意図的に出している。
その場にいた者は軽くふらつき、首を傾げていたが…それが璃音の放つ殺気だと気がついたのは俺と澪羽、ヴァルと…騎士の中にいる全身新品の鎧を着た(多分身長的に俺達より年下だろう)兵士ぐらいだった。
澪羽や俺は普段から殺気慣れしているが、ヴァルと新米兵士は真っ青な顔でごくりと喉を鳴らしている。
あれ…?ヴァルって…総隊長だろ?
この程度で青くなっていたら、これから先やってられないぞ?
そんな事を考えていると澪羽に服を引っ張られた。
此処だとやりにくいから移動する事になったらしい。
鞄を肩にかけ、闘技場に移動する。
闘技場は…いかにもコロシアム!って感じだな。…変換しただけだな、文字を。
騎士が練習に使うだけにしてはヤケに豪華だなと思ってヴァルに聞くと、苦虫を噛んだ様な顔をした。
どうやら此処で暇つぶしの為だけに奴隷や獣を戦わせたりする事を結構頻繁にしているらしい。
しかも、オッサンと国王が率先して。
…よし、あのオッサン、九割殺し決定だな!!
璃音と澪羽を観客席に残し、階段を降りる。
コロシアムの舞台に騎士達が武器を持ってきた。
使う武器を選べって事か?
「私はコレを」
オッサンは俺の身長程の大剣を選び片手で素振りした。
丁度ひらひらと降りてきた木の葉がスパッと真っ二つに切れた。
観客席で歓声が上がる。
何でそれだけで歓声が上がるのかは…謎だ。
こっちを見てニヤニヤしている所を見ると、俺に見せ付けたかった様だが…それくらい普通じゃないか?
俺は武器は何でも良かったので、適当に腕よりは短い程度の長さの細身の剣を手に取った。
「そんな剣で良いのですか?」
「…まぁ」
殆どの人が「そんな剣で勝てるのかよ」っていう視線を送ってくる。
武器は大きさじゃないだろうとか言いそうになったけど、多分こいつには口よりも見せた方が良さそうだな。
決闘のルールは相手を殺さない、時間は無制限。
どちらかが降参するか気絶をしたら死合い終了らしい。
「準備はいいか?」
「あぁ」
「はい」
「では構えて─」
因みに一応審判はヴァルがする事になった。
オッサンは膝を軽く曲げ重心を前気味にし、両手で大剣を構えた。
対する俺は─
「…構えなくて良いのですか?」
右足を斜めにずらし重心をやや後方にして、剣を右手にだらりと持つ。
「構えない方が応用が利くんですよ」
「あんたみたいに型にはまった構えなんて以っての外」と口外に言うと、察したのかオッサンの目つきが鋭くなった。
「では、試合い始め!」
ヴァルは此方を一瞥した後、手を上に持ち上げ、下ろした。
「うぉぉぉぉおっ!!!」
オッサンはその合図と共に一直線に此方へ駆け出し、剣を斜め上に切り上げた。
バックステップで避け、更に上から袈裟懸けに振り下ろそうとしてくる剣の腹をジャンプして蹴り上げる。
剣が宙に高く舞った。
オッサンは予測出来なかったのか、呆気に取られていた。
おいおい…騎士として隙見せちゃ駄目だろ…と思いながらその隙を見逃す俺じゃない。
後ろに回りこみ開いてる左手で左肩を掴み…
コキッ バキッ
「ぐぁっ!?」
間接を外し、手刀で腕の骨を折った。
何故両方やる必要があったのかと思うだろうけど…唯の嫌がらせだ。
俺はドSじゃないぞ? …多分。
…おぉ、結構痛くなる様に態と下手な攻撃をしたっていうのにまだやる気だ。
そして、今更宙に舞っていた剣が降って来て、地面に突き刺さる。
どれだけ脚力上がったんだよ、俺(笑)
オッサンはそれを掴み、またこっちに突っ込んでくる。
動きが騎士の型のまんまなので硬いから回避しやすい。
暫くひらひらかわしていると、オッサンは痛みと長時間動いたせいで息が上がり始めた。
そろそろ終わらせるか。
またまたワンパターンしかないのか袈裟懸けに振り下ろしてきた剣を左手で掴む。
「なっ!?」
「秘技★片手白刃取り!」
アレぐらいの早さだと普通なら切れるんだが…残念ながら、俺には最恐の師匠がいるからそんな事はない。
オッサンがムキになって押し切ろうとするが、此方も同等の強さで押しているので微動だにもしない。
「はっ!」
俺は左手にあった剣をオッサンの大剣に突き刺す。
金属が砕ける音がして大剣は突き刺した所を中心に粉々に砕け散った。
まさかこんな細身の剣で大剣を砕けるなんて思わなかったのだろう、騎士や魔道士達が驚いている。
「…まだ続けますか?」
「いや…私の惨敗ですよ」
片膝をつき渋面顔で苦しそうに肩で息をしている。
しかし、こんな姿を見ても別に同情なんて沸かない。
『兄さん、此処地下に部屋があるよ?』
「ヴァル、ここのコロシアムは地下があるらしいな? ちょっと借りて良いか?」
「あ…あぁ」
璃音がいい情報を教えてくれた。 早速使わせてもらおう。
澪羽の膝上に乗っていた焔を呼び寄せながら、許可を取る。
ヴァルが何処でそんな情報を…とぼやいていたが、気のせいだ。
オッサンの襟を後ろから掴み引き摺る。
腕の痛みが増してきた様で抵抗する気力も無い様だ。
何故焔を連れて来たかというと、ついでに治癒魔法を覚えたかったから。
拷問⇒治癒⇒拷問⇒治癒の無限ループをする予定だ。
精神的にどうかするかもしれないが…んな事は知ったこっちゃあない!!
正直拷問は璃音の専売特許的なアレだが、出来ない事も無いし。
…さて、何で澪羽を変な目で見たのかO★HA★NA★SHIしようか…?
その日はコロシアムの何処からか男の絶叫が国中に響いたとか響かなかったとか。