第1話 勇者⑤
《side:劉夜》
あー今日も空が青いな~お、こっちにもスズメいるのか~
というか、俺の部屋からの景色もなかなかのもんだったが、此処からの眺めも良いな~
城下町一式見えるし、後で行ってみたいな~
お、魔法使ってるー
「兄さん…分かる、戻ってきて?」
「良いな~見学でもしてこようかな~」
「…僕だって現実逃避したいんだけど…」
「……」
くそっ…璃音、道連れにするつもりなのか…?
…まあ、何でこんなに現実逃避しているかというと、目の前の"ブツ"のせいだ。
俺達はヴァルと一緒に食堂に行った。
そこは兵士や騎士、魔道士達が大勢いた。
ヴァルはどうやら堅苦しいのは嫌いらしく、良く食堂を利用するらしい。
それに関しては賛成だが…女性が少なくて筋肉ダルマ率が…ムサい、暑苦しすぎる…。
イメージとして、鋼の錬●術士のアーム・ス●ロングがウジャウジャいると思ってくれれば!
…で、出された"ブツ"改め朝食は…
「「な…なんじゃこりゃぁ!!?」」
「なにこれっ!?」
…深緑色の…スープ?だった。
更にとてつもない臭いを放っている…。
いやいやコレ、可笑しいだろ!?絶対食べ物じゃないっ!!
それに、時々表面が虹色に怪しく光ってる!?
熱くも無いのに、ポコポコ気体が出てるし!!
……前に璃音が作った創作鍋(というより寧ろ闇鍋)より酷くないか?
「どうしたんだ?」
ヴァルが首を傾げるが…普通に考えて…コレ食べれるモノではないよな!?
…ん? 何か寒気が?
横を見ると璃音と澪羽が目で…何かを訴えてきている。
何々?…「兄さん、頑張って!」…ってええぇぇぇえ!?
俺を殺す気かっ!?
まぁ…多分、この中に入っているものが気になっていて、毒見をさせて俺に解説を…って事だろうな。
俺は、昔から料理を母さんに扱かれていた所為で、料理を一口食べるとある程度何が入っているか分かる。
今ではこの能力(?)はあって良かったなと思う。
某有名レストランとか行って食べてこればそこそこ真似が出来るし?
でも毒の類は俺は判らない。 璃音は父さんに教えてもらったみたいだから判るんじゃないかな?
…死にかけてたけど。
というか、さっき叫んだせいで注目浴びて無茶苦茶居心地が悪い。
ヴァルは「早く食べないのか?」と見てくるし、璃音と澪羽もこっちをじーっと…
ああっ、もう食えばいいんだろ!?食えばっ!!!
半ば自棄クソになってスプーンにすくい…口の中にいれた…
「……」
「に…兄さん?」
「リュウ兄…?」
「………!?」
あまりの不味さに両手で口を押さえる。
俺はすぐに能力(?)に後悔した。
吐きそう…あ、目から汗がっ…あれ?とまらない、可笑しいな~
「だ…大丈夫…?な、何が入ってた…?」
ごめ…もう、味も内容も酷すぎてライフゼロ…
なんというか…ネバネバドロドロしていてその上…(以下略)
「…トカゲっぽいものの粉末、蛙っぽいものが丸ごと、蛇の様な味もしたな…で唐辛子はまだ良いとして…蛞蝓、くm」
「もう良いよ!!!」
「もう良いです!!」
「……ですよね~」
俺が口を押さえながら呻く様に言うとまだ4分の1すら言ってない所で止められた。
二人共顔が真っ青になっている。
普通に考えて入ってるものが魔女が怪しい薬を作ってる時に使うような材料が入ってたからな…
ほら…某ジ●リシリーズの風の谷のナウ●カにでてくる…あの婆さんがいるだろ…?
「これ…不味くないのか?」
「えっ? 食事って栄養補給なだけだろう?」
どうやらこの世界では、生きていく為にしか食事をしていないらしい。
うわっ、人生損してるな…
「俺が料理してやるよ、厨房借りて良いか?」
「あ…ああ」
ヴァルに頼み、厨房を借りた。
とりあえず謎のスープは遠ざけ、窓を開けて換気する。
璃音と澪羽もまだ顔が青かったが、机の上のものを見たくなかったらしい。
…正直厨房の方が危険(?)な気がするけどな…。
ヴァルと料理長も興味津々らしくついてきた。
料理長に聞いた所、普通の食材もあった。
何でコレを使わないのかって聞いてみたら、さっきのスープにも入っていたとか。
…あれ?鈍ったかな?
いや、他に入っていたものがインパクト強すぎたんだ、きっと!
とりあえず、フランスパンみたいなのと卵、油、バター、牛乳、キャベツやトマト、ウィンナーなどを出してもらう。
料理長とヴァルが食べてみたいと言った為、5人分作ることにした。
俺は2つのフライパンに火をかけ片方に油を少量注ぎ傾け伸ばす。
ボウルに卵と牛乳を混ぜ、ブレザーの右ポケットから取り出した砂糖を入れる。
「兄さん、何でブレザーに砂糖が入ってるの?」
「璃音の白衣に入っている薬品と同じ理由」
本当は食パンの方が良かったけれど、なさそうなので、フランスパンもどきをその中につける。
フライパンが温まった頃に油をひいた方にウィンナーを入れ、もう片方にバターを伸ばし、パンを入れて焼く。
お皿に野菜を見栄え良く並べ、ズボンのポケットに両手を突っ込み、左からは塩と胡椒の入ったビンを取り出し、もう片方からは胡麻ドレッシングのビンを取り出し、塩胡椒はウィンナーにかけて、胡麻ドレはサラダにかける。
丁度よく焼きあがったパンとウィンナーを盛り付け、ブレザーの左ポケットから飾り用の瑞々しい(ココ重要だからな!)ミントを取り出す。
「「「「……」」」」
「…ん?」
何で硬直してるんだ…?
不思議に思ったけれど、食堂のテーブルにお皿を運ぶ。
完成した事を伝えると、4人は我に返った。
厨房から出て席に着き、食べ始めた。
「ん~パンは固いから微妙だけど、ま、こんなもんか。パン、作りたいな…璃音、イースト菌ある?」
「あるよ~」
「え、ルー兄イースト菌まで持ち歩いてるの…?」
「菌や毒、薬は一通り持ち歩いてるよ」
「「……」」
こんな会話をしていたんだが、ヴァルと料理長の方から声が一切しなかったので、見てみると…号泣していた。
フレンチトーストぐらいで泣くなんて、相当酷い食文化だな…
とか考えてたら2人はこっちにバッと効果音がつきそうな位に勢い良く振り向き、
「これから毎日作ってくれっ!!!」
「師匠っ! 弟子にしてくださいっ!!!」
と泣きながら頭を下げられた。
…何故こうなった。…いや、俺師匠じゃないし!