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行か……ないで  作者: 空十色
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置いていかないで

未開封の封筒だが、来た手紙と言うよりは、出せなかった手紙のように思える。

とりあえず読んでみることにした。

「この村はおかしい。この手紙を読んでる人がいるということは、この村に異変が起こったという事なのだろう。少なくとも異変は起きる。こんな村にいられるものか。私は美弥子を連れて逃げるとする。そこで異変が起きるだろう。誰が読むかもわからない手紙を私は書いていることになるのだが・・・・・・これが何事もなく焼き払われるのを願うより他ないだろう。私も秦の人間だが、この村は、旧端野巫女の考えを受け継いでいる。旧端野巫女の考えは、贄を惨殺するものだ。時には四本目の楔の周辺に生き埋めにされたり、突き落とされるように転落死させられることもあると聞く。巫女で儀式がうまくいかなければ、次は男・・・・・・巫女になれぬ男は、天晒(あまざら)しという絞首と、両脇から槍を突き刺すという方法が取られ、死んでいる同然の体から心臓を抉りだされるとも聞く。なんとも恐ろしい事だ。この村は巫女の力を弱めないため、外との交流をほぼ断っている。だからこんなおかしな儀式をしていても特になんとも思わないのかもしれない。今は旧端野巫女から、新端野巫女になった

ことを知らぬのだろう。これは、私の二代前あたりから変わったらしいが、外との交流を断っているに等しいこの村は、いまだにおかしな儀式を続けている。五年に一度行われる儀式と聞いたから、まさかとは思ったが、妻である俊枝(としえ)が帰って来ないことがわかり、疑問は確信に変わった。変わってしまった。もし旧端野巫女だと知っていたなら、俊枝と美弥子を連れてこの村からすぐにでも出たものを・・・・・・つくづく自分が恨めしくなる。だが、今更嘆いても遅い。恐らく憶測だが、この手紙を読む人物があらわれる頃には私達は、この村にいないだろう。この手紙を出す相手がみつかったならまた話は別だが・・・・・・あいつは・・・・・・いいや、あいつはダメだ。話が反れてしまった。話を戻そう。新端野巫女の教えは、巫女に似せた人間をつくり、それをうつせみとして、川に流し、霊の怨霊を宥めるといった事をする。誰一人として死にはしない。死ぬ必要がないのだ。うつせみ流しは毎年行わなければならないが、贄が5年に一度選ばれて死ぬよりはいいだろう。もともと、生きている人間が

死ぬといった儀式はおかしいのだ。霊を宥めさえすればいいのだから、生きているものをあやめる必要はないだろう。もうこの村の事情はわかっていただけただろうか?この手紙が村人に渡れば、村人は鼻で笑って、逃げ出した奴が何を言うかととりあってくれないだろう。どうかこの手紙が異村の者の手に渡ってくれる事を祈る。そして、この村を救ってほしい。少なくとも、私や美弥子だけでは救えないだろう。」

長い手紙は、どの封も同じ内容が綴られていた。

一度は、どこかに出そうとしたらしいことも書かれていた。

なるほど・・・・・・美弥子ちゃんのお父さんは、別に死ぬことが怖くなって逃げ出したわけではないらしい。

ちなみに、楔となる巨大な石が四本立ち並んでいるのは、三つの厄災と、それを宥めるべく楔となる贄の存在で死・・・つまりは、四本になるらしい。

これも、村人達が4を最も恐れる理由の一つだったのかもしれない。

死で、四か・・・・・・。

チリンと鈴がなったので、私が構えると、そこには霊がいた。

「おっと、おでましみたいだぜ。」

もう一度チリンと鈴がなったので、振り替えると、そこには、さっきまで無かったはずの和人間が転がっていた。

私はジリッと和人間に近づくと、札を叩きつけた。

私が和人間に攻撃を仕掛けたのと、イツキが悪霊に切りかかったのはほぼ同時だったように思う。

お札を貼りつけた人形は、人形から黒いもやを発し、私に取りついてきた。

「いやぁあああああっ!」

誰かの記憶が流れ込んでくる。

憎悪、嫌悪、どちらともつながない負の感情が体に流れ込んでくる。

『くじは、常に公平だ。神の意志により決定される。あの腰抜けとその娘が逃げてしまった以上、早急に新たな贄を決め、贄を捧げなければならん。』

長老らしき人は、クジを引き、すぐに贄を作り上げた。

記憶は儀式当日の、楔前へ来た。

選ばれた女性は、死に装束を着て、ガタガタとゆれている楔の前に来た。

地震が起きているわけ出もないのに、人の背丈よりある、太くて大きな石がゆれている様はなんとも不気味だ。

女性の息は乱れていた。

死を直前にしている者なら同然のことなのかもしれない。

そこへ、長老が女性の肩を叩き、『これは、選ばれた名誉ある死だ。何も考えなくていい。』と耳打ちした。

その瞬間、女の人は今までが嘘だったかのように楔に近づいていくと、中心から出ている鋭い岩のところへ、倒れるように自分の体を突き刺した。

まるで取りつかれているかのように起き上がり、また体に突き刺すという行動を繰り返し、ついには動かなくなった。

その瞬間、楔が赤い光をおびはじめ、爆風を起こした。

その場に立ち会った人達は、長老を含め、オロオロとしはじめ、『やはりこれでは押さえきれなかったか!』と口々に言い出した。

『我々をバカにしているのか・・・・・・次はあの娘のはずであろう。』

酷く擦れた聞き辛い憎々しい声だった。

『儀式は・・・・・・失敗した・・・・・私達の未来は・・・・・・閉ざされたのだ。』

赤い光に村がつつまれ、長老は、白目を向きながらそう呟くと、そのまま倒れた。

周りの人間もそうだった。

だが、ただ倒れただけなのに、何故か骨や体が鈍い音を立て、あらぬ方向に曲がりはじめた。

何が起きているのかわからずに、目を凝らしてよくよく見ると、悪霊達が押さえきれない破壊行動を、死んでいる同然の人々に向けているように見えた。

なんて(むご)い・・・・・・。

だんだん吐き気がしてきた。

あらぬ方向に無理やりねじ曲げられた体、破れる皮膚、原形を止めない顔、飛び散る大量の血や臓器。

酷さは人それぞれであるものの、すべてこてんぱんに叩きつぶされ、人間ミンチ状になっている人もいた。

そういった人達が、仮の宿り器を探して和人間に憑いているのかもしれない。

―――とてつもない憎悪と共に。

もはやお馴染みの、衝撃が走るような痛みと、聞きなれた声が耳に飛び込んできた。

「リコッ!リコおい!コラ!」

「いつ・・・・・・き?」

「俺達以外に人間がいるのか!?」

「・・・・・・元人間だった人達なら・・・・・・。」

「バカ!そりゃ幽霊だ。俺たちの敵だろ!?リコは勝手に人の家に入っちまうし、いきなり家ン中あさったと思ったらまた日記か?」

「・・・・・・え?」

「え?じゃねぇよ。今リコが持ってるそれ、日記だろ?」

覚えのない場所で、覚えのない書物を私の手は確かに掴んでいた。

その日記は、全身に寒気が走り、投げ出してしまいたくなるような何かがある日記だった。

一応ページを開くと、「みやちゃんがこの村とぼくたちを見捨てた。」と大きな字で書いてあった。

次は「やるせないから、みやちゃんが逃げたことは、口にしちゃいけないから、日記にぶつけることにした。」と書いてある。

みやちゃんとは・・・・・・美弥子ちゃんの事だろうか?

「たっちゃんとぼくを読んでくれたみやちゃんが、今は憎い。どうして村を捨てたの。どうしてぼくらを捨てたの。」

ぞわっとした。

どうやら美弥子ちゃんの仲良しだった友達の一人、たっちゃんと呼ばれる男の子らしい。

「憎い・・・憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い憎い・・・・・・」

数十ページも同じ文字が並び、ついには、「・・・・・・酷いよ。みやちゃん・・・・・・」と書いてあった。

そこから先は何も書いていないページが続いた。

その本を机に置こうとして落としてしまった。

一番最後のページに何か書かれていた。

「・・・・・・一人は・・・・・・嫌ダって・・・・・・言ッタじゃないカ・・・・・・ずっと仲良しダヨッテ・・・・・・ぼくのお嫁さんニナッテくれるって・・・・・・みやちゃん、頷いたジャナイカ・・・・・・ココニイテ・・・・・・一緒にイテ・・・・・・みやちゃん・・・・・・みやちゃん・・・・・・。」

この少年も、美弥子ちゃんも、精神がおかしくなっていたらしい。

たぶん、美弥子ちゃんの頭にココニイテ、と呼び掛けていたのはこの少年だったのかもしれない。

5521手、1人818、385。

この日記と筋があう。

幼い日の約束なのだろう。

二人が口約束をして、それが憎しみに結び付いてしまった。

美弥子ちゃんは、後の日記は、霊の事ばかり書き連ね、少年の事は書いていなかった。

美弥子ちゃんも、一杯一杯だったのだ。

記憶を見た私には、わかる。

みんながみんな、一杯一杯になってしまい、招いてしまった悲しき結果。

その机の上にも長老の家にあったと思われる何かが置いてあった。

「これ、本当に何なんだろう?」

触って調べようとした時だ。

「・・・・・・ココ・・・・・・ニ、イテ・・・・・・。」

ノイズ混じりのその声は、確かにそう言った。

「・・・・・・み・・・・・・やちゃん・・・・・・」

まだその音は激しいノイズを繰り返しながら続く。

「・・・・・・これ・・・・・・で・・・・・・ずっと・・・・・・一緒・・・・・・。」

背筋がゾクリとした。

音はそのまま切れたが、切れたと同時に人形が落ちてきた。

美弥子ちゃんそっくりの菫色の着物を来た和人形だ。

そこには、黒い糸のようなものが首に絡み付いていた。

私が拾い上げようとした瞬間に、首がもげ、そのまま灰とかした。

「ひぁっ・・・・・・!」

私が驚いて手を引っ込めると、鈴がチリチリと鳴った。

私が身構えると、後ろから二人ほど私達に近づいてきた。

「・・・・・・この村は・・・・・・終わりだ・・・・・・。」

・・・何だろうか?

「わからない・・・・・・わからない・・・・・・わからない・・・・・・」

わからないばかり呟く霊がいる。

どちらもあまり強そうではない。

通りすがりの霊といった感じだろう。

「わからないってねぇ・・・・・・私のほうがわからないよ・・・・・・何?どうすればこの失敗した儀式の埋め合わせができて、この村は消える事ができるの?」

「・・・・・・それは、あっちに聞いてんの?俺に聞いてんの?」

「イツキに聞いたらわかるの?」

「いや、わかんねぇけど・・・・・・。」

「なら答えは、どっちに聞いても同じ・・・・・・か・・・・・・。」

私は走りだし、札を幽霊の一人に貼りつけた。

イツキも一振りで霊を倒し、呆気なく霊達は消えていった。

「・・・・・・この村の外へ出るには、風谷、盛末、秦の家紋を受け取り、はめ込まなければこの村の外からは出られまい・・・・・・なのに、あの父親・・・・・・どうやって娘と逃げた・・・・・・。」

「ひゃぁああ!?」

いきなり声がしたので振り向くと、何かを考え込みながら玄関へ向かう幽霊を見た。

少年のお父さんだろうか?

「どうかしたのか?」

「・・・・・・この村から出るには三家の家紋が必要なんだって・・・・・・。」

「はあ。」

「なのに、どうして美弥子ちゃんやお父さんがこの村から逃げ出せたのか不思議みたい。」

「で?次はその三家を廻れとか言わねぇよな?」

「言うけど・・・・・・。」

明らかに落胆したイツキが、「じゃあ休憩!まず井戸がある場所で水分補給と飯!これ以上は、俺が持たねぇよ・・・・・・。」と言った。

言われてみれば、私も空腹だった。

どうやら乗っ取られると、自分が水分不足や空腹だという感覚がわからなくなるらしい。

井戸には、井戸に落ちて水死した子供の霊が出てきたきり、それ以外は特に起こらなかった。

私は、あまりその井戸の水を飲む気にはなれなかったけど、体が訴えてくる水分不足には勝てずに、思い切って飲んだ。

少しだけ元気になったような気がした。

水分が満たされると、空腹はよりいっそう激しくなり、腹の虫が勢いよく鳴きはじめた。

「うぅ・・・・・・!」

私は思わず赤面し、お腹を押さえたが、イツキは全く気にした様子は見せずにリュックをあさっていた。

私も鞄からカロリーメイトを出すと、かじった。

イツキは、行儀悪くも、カロリーメイトを口にくわえたまま、結界を貼ると、どかっと座り込んだ。

2本ほど平らげた後、「で?次は三家のうちのどこへ行くんだ?」と聞かれたので、私は首を傾げた。

この井戸から近いのは、風谷家だろうか?

「じゃあ、風谷家から・・・・・・。」

「おいっす。」

・・・・・・何だか、どんどんイツキが冷たくなっていっているような気がする。

気のせいなら良いんだけど・・・・・・歩く時は、必ず私より早足で歩くし、今も目を合わせて話ができなかった。

それだけこの村の事で頭が一杯なのだと言われたら、それまでなのだろうけど・・・・・・。

イツキは広げた荷物をさっさとまとめると、私に背を向けてから「行くぞ。」と言った。

「いいけど・・・・・・。」

結界はとかれ、やはり早足で歩いていってしまう。

「待ってよ!イツキ!」

「何だよ?」

「何でそんな早足なの!?」

「・・・・・・えっと、あれだ、霊と遭遇する率を下げるため。」

「そんなことしても、遭遇する時はするよ!」

「そんなの、ずっと一ヶ所にとどまってる時よりか遭遇する率が少ないだろ!・・・・・・たぶん。」

これ以上の言い争いは無駄だろう。

何故か私はイツキに嫌われたのだ。

でも、何故?

考えたらむなしくなり、私は歩みを止めた。

きっと歩みを止めてもイツキは気付かないだろう。

もう行く場所はハッキリしている。

三家を廻る事も、その目的も・・・もう、ナビゲーターの力はいらない。

「・・・・・・リコ?そんなとこで何してんだよ?」

「・・・・・・別に・・・・・・。」

「別にじゃねぇよ。ほら、早く。」

「私が邪魔ならそう言えばいいよ。私は別に・・・・・・。」

わかっていた。

イツキだっていつかは、離れていく人間の一人だって。

なのに何故こんなに苦しくなるのだろう?

何故こんなにむなしくなるのだろう?

慣れていたことではないか。

嫌われる事も、一人になることも。

なのに何故、私は別に一人でも大丈夫だと、言いだせないのだろう。

何故こんなに、泣きたくなるのだろう。

泣いてはいけないと、うつむいて、歯を食い縛った。

「早くしろよ。置いていくぞ?」

「置いていけばいいよ!もう、行く場所も、目的もハッキリしてるでしょ!ナビゲーターは、いらない。私は、もう、利用価値がない・・・だから、邪魔なんでしょ!?」

「何言ってんの?」

ようやくイツキは私に近寄ってきた。

それでも溢れだす負の感情を制御することが、私にはできない。

「じゃあ何で置いてくの!何でどんどん進むの!?どうして、私の顔を見ないの!話すときくらい、人の顔見て話せって、教わらなかった!?」

「・・・・・・あのな!俺の性別考えて!」

いきなり大きな声で言われ、わけがわからずに、泣きそうだった顔を上げた。

「性別って・・・男・・・だけど・・・?」

「リコは、引くだろ。ほら、行くぞ。」

「意味・・・・・・わかんない・・・・・・男だから、何・・・・・・?」

一人、呟いてみたが、その声はどうやらイツキには届かなかったらしい。

だが、どうやらお荷物や、邪魔になったというわけではないらしい。

男が理由?

はて・・・・・・全くもって意味がわからない。

私が引くとも言った。

男で、引くって・・・・・・あ・・・・・・私は、女で・・・・・・って意味・・・・・・?

それでいいなら、私はいつも嫌われ者だったから、そんな事思いつきもしなかった。

そうか・・・そう言えばいつか聞いたことあるな。

やろうと思えば好きではなくてもできる、と。

・・・・・・その相手が厄災を運び込む、根暗と呼ばれた私でも・・・・・・?

考えれば考えるほどよくわからなくなってしまった。

うむ、とりあえず私は嫌われたわけではないのだな。

そう思い、無理やり自分を納得させた。

風谷家の前に来ると、かなり大きな家であることがわかった。

そして、裏口に回ると、そこには、倉庫のような者があり、その下に何かが落ちていたので拾ってみた。

何かの模様が刻まれているけど・・・・・・。

その瞬間、頭が痛くなった。

『風谷の家紋を盗もうとするなど、言語道断!逆さ吊りの刑に処そうぞ。』

『お許しを!何とぞ、まだ子供がしたことにございますから・・・・・・!』

そこには、おお泣きしている子供がいた。

『今の状況がわかっておるのか!?ただでさえ、贄が逃げ出して・・・・・・』

そこで会話は途切れ、世界は闇に包まれた。

儀式が失敗する直前の物流思念だったのかもしれない。

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