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死神の秘書シリーズ

死神と私

作者: 尚文産商堂

目が覚めると、私は宙に浮かんでいた。

「えっ、どういうこと?」

落ちるという感覚も、浮かび上がるという感覚もなく、ただ、浮かんでいるとしか思えなかった。

「目覚めましたか」

誰かに呼ばれたような感じがして、周辺を見回す。

「だれ?」

「運悪く、あなたは死んでしまったのです」

「どゆこと?」

「それはもう、安らかな寝顔で…」

どうやら、その人が言うには、私は心臓まひで死んだということらしい。

そして、彼は死神と私に名乗った。

「死神って言って…姿が見えないから何とも分からないんだけど」

「ああ、これは失礼を」

そう言って、暗闇の一部がカーテンのようにまくりあげられ、そこから人が入ってきた。

「先ほどまで、死神と名乗らせてもらっていた者です。一応、サイン神という名前もありますが…」

「誰それ、っていうか、私本当に死んじゃったの?」

「ええ、さきほどから言っているでしょう。心臓まひで…」

「安らかな寝顔だったって。それは聞きあきた。そんなことより、ここはどこ?」

サイン神は、私の近くへ歩み寄ると、私に詳しく教えてくれた。

「ここは、"神の幕屋"とよく言われる場所です。詳しく言えば、私の家の2階にある物置部屋兼趣味部屋ですね」

「趣味部屋?」

「ええ、電気をつけたら、どういうことかわかりますよ」

「じゃあ付けてよ」

私が言うと、指パッチンが1回聞こえたと思うとすぐに眩しくなった。

目のくらみが収まってから、周りを見ると、ものすごい量の本と巨大な機械が置いてあった。

「これ…」

「大学図書館を束にしても、ここの蔵書量にはかないませんよ。古今東西、すべての本があります。ただし、文字はそれぞれの時代そのままのため、翻訳が必要なものもありますが」

「すご…」

私はようやく見えた床を慎重に歩きながら、本の山へ近付いた。

「翻訳が必要な時には、あの機械にCDのように差し込めば、画面に文字がすぐに表示されますよ」

私は試しに、すぐ近くにあった本を、CDドライブのようなところにセットし、そのまま機械に読み込ませた。

「この本は、"ユークリッド"著、『原論』です」

女性の合成音声で、私の脳に直接語りかけてきた。

「ユークリッドって、古代ギリシャの数学者の?」

「ええ、あの人が書いた物の複写本です。本当は原本がほしかったんですけど…」

「そんな昔の複写本があるだけでも十分よ」

私は、読者好きの血が騒ぎ出していた。

ここに来る前は、いろんな本を読み漁っていたほどだ。

高校の図書館に通い詰めで、図書館の住人といわれていたほどだ。

「そういえば、どうして私を連れてきたの?」

「ああ、すっかり忘れていました」

彼は、部屋のカーテンを開け、向こう側へ案内した。

「実は、私の秘書になっていただきたいのです」

「ひしょ?」

「ええ、運悪く亡くなってしまったとお思いでしょうが、私としては、逆に運が良かったのですよ。この前の秘書は、本が大嫌いで、3日でやめてしまいましてね、その後任がなかなか決まらなかったんですよ」

「それで、私がこっちの世界に来たから…」

「ええ、こちらとしては本が好きで、頭が良くて、何事にも対応できると思われる人材こそがほしいので」

「…まあ、本当に死んじゃったっていう証拠を見せてくれたら、あなたの秘書になってもいいけどね」

「本当ですか。それはよかった」

そう言うと、サイン神は、部屋を再び暗くして、私に目を閉じさせた。

「行きますよ」

そう言うと、体が何かにぶつかるような感覚が一瞬通り過ぎて行った。


「目を開けてもらって構いませんよ」

感覚が体から無くなるころに、サイン神が言った。

「ここって、私の部屋?」

「そうですよ」

ベッドの上には、私が横たわっており、そのすぐ横には父と母が泣いていた。

うっすらと聞こえてきた会話には、まだ若いのにとか、夢半ばでとかそんな言葉が聞こえてきた。

机とか部屋にある本棚とかは、何も触られた形跡がなく、いつまでも起きてこない娘を心配して見に来たら…といった感じに見えた。

「どうですか。これで信じてくれましたか?」

「…まあ、ね」

私はこの状況を見て、ようやく納得した。

再び目を閉じらされて、あの感覚を味わった後、ちゃんと申し出てくれた。

「では、正式に、私の秘書として活動をしていただきたいのですが…」

「ええ、いいわよ」

戻るための肉体が死体として発見された以上、生き返るという選択肢は、私は考えなかった。

「それで、何をすれば?」

「ああ、簡単なことですよ」

サイン神はそう言って、カーテンを開けた。

「私が適時指示を出しますので、そのことを調べたり、整理をしていただきたいだけです」

「それだったら、秘書じゃなくても…」

「いえ、本の関連を中心にしてもらいます。私は私自身の本業も忙しいので」

「…本業?」

そう言えば、神というからには、それらしいことをしているのだろうか。

「ええ、あなたの世界でしたら、オールド・ゴッドと言ったほうがいいかもしれませんね」

「ちょっと、それって、第18銀河系の?」

「そうです。学校で習うんじゃないですか?」

サイン神は不思議そうに首をかしげて私に聞いた。

この世界は18の神が18つの銀河系それぞれをおさめている。

その中でも、今の宇宙空間の前の前ぐらいからいたとされる神々の総称としてオールド・ゴッドという存在がいた。

「まさか、あなただったとわね」

「ええ、私の本業も、自ずと解るでしょう」

そう言えば、オールド・ゴッドは、エネルギー関連をつかさどっていたような気がする。

間違えていたかもしれないが。

「さて、そんなことよりも、この家を一通り案内しましょう。こちらへ来てください」

「分かったわ」

こうして、私はサイン神に雇われて秘書ということで働き出した。

飽きたらいつでも言ってほしいと言われたが、到底飽きる事はないだろう。

なにせ、ここにはこんなに本があるのだから。

私にとっては3食付の図書館にこもるというのが一つの夢だった。

だから、死んでからそれが叶えられたというのも何か微妙な感覚だったけども、私は、十分に満足している。

神の秘書というのも、悪くないかもしれない。

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