十七郎の不安
幼い文字と絵で描かれたいわゆる救出作戦図案が目に入ったとき、大人たちはいよいよこまり果てた。
こうなってしまえば一二三を納屋の柱にでも縛りつけて、しばらく閉じこめておくのもしかたがないが、それが母の耳にでも届けばなおのこと気を病んでしまうだろう。
あとはもう、頼れるのは長兄だけだ。
長兄に説得してもらえば一二三も渋々とはいえ従うだろうと思い、大人たちはほとんど急電報で相談を持ちかけた。
すると不思議なことに、翌日には長兄が訪ねてきたと思ったら、説明もほとんどないまま一二三を車に乗せてさっさと帰ってしまった。
一二三たち家族が住んでいた帝都の家は先の帝都大空襲で全焼してしまっている。
しばらく引き取って面倒を見るつもりなのかもしれないが、長兄も次兄も帝国海軍軍人としての職務があって、終始そばに置いておくわけにもいかないだろうし、まだひとりで留守番ができる年でもない一二三が兄たちの帰りを待つ場所はない。
ひょっとしたら本山家の本家――父方の実家――に、頭が冷えるまで一二三を預けておくのかもしれない。
あるいは大空襲後の帝都の惨状は地獄絵図のまま、再建も復興も途方に暮れていると聞く。
その生々しい光景をじかに見せて説得し、夜には怖がって泣きじゃくっているかもしれない一二三を連れて戻ってくるのかもしれない。
伯父も祖父もそうだろうと思い、ある意味楽観的にここは長兄に任せることにした。
――しかし……。
十七郎はいやな予感をさせ、何ともいえない表情を隠せずにいた。
――きっと、長兄は父の処刑を一二三に見せるつもりでいるのだろう。
朝、訪ねてきた長兄を見た瞬間、なぜか十七郎はそれを直感した。
本来であれば一二三にとことん甘い長兄なのだから、人が死ぬ現場、しかも実の父が銃殺刑で死ぬ……そんな残忍な現場を見せることに同意する意思など浮かびもしないと思うのに。
――なぜ長兄は、そちらを選ぼうとしているのだろうか。




