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ボクにできること

 兄ふたりが一二三(ひふみ)たちのもとを訪ねて、先の帝都大空襲という帝国海軍の尋常ならざる大失態の責任をとるかたちで父が軍法会議の末、銃殺刑に処されると知らされてから数日。

 それまで誰も疑問に思わなかった「敵国」による蛮行極まりない空襲も、なぜ帝国海軍は迎撃できなかったのかというところにたどり着き、大きな波にこそならなかったが、人々の口はしだいにそれを声にするようになった。

 国土防衛に対する絶対の信頼と安心、かつての明治海軍と日露戦争後の勝利への過信がここにきて危うい方向へさしかかろうとしている。

 いま世論が騒げば、「敵国」が明確にもなってないのに即戦争となりかねない。

 無論、新聞やラジオに関しての報道は一切触れることがないよう帝国海軍側、軍令部や海軍省が圧をかけ、軍関係者には厳重な箝口令を敷いている。

 それをあえて破った長兄から事の次第を聞かされた一二三たちは、それこそけっして口外することなく過ごしていたが、問題はべつのところで起こった。


 ――父の銃殺刑の場を見なければならない。


 誰に言われたわけでもなく、一二三がそれを強く思うようになってしまったのだ。


 ――もしかしたらそこで、父を助けることができるかもしれない、と。


 当然、これには祖父や伯父たち家族一同が猛反対し、三兄の十七郎(とおしちろう)も「子どもが見るもんじゃない!」と怒鳴りつけて一二三を叱った。

 だが、一二三はどうしても父の最期をこの目で見なければならないような気がして、誰に何を言われようと「見る!」と言い張り、しまいには帝都をめざしてこっそり家出をする騒ぎにまでなってしまった。

 母はあまりにも心労が激しく床に伏してしまい、末弟の大和(やまと)は周囲の異様な気配に怯えるように泣く時間が増えた。



■ ■



 わずかに涼を感じる北からの風が流れる、夏の夕暮れ。

 夕蝉の声を聞きながら、ついに手をあげた十七郎にぶたれた頬をさすり、一二三は茜色に染まる空を見やり、何かを思う。

 そして末弟を包みこむように寝転がり、小さく愛しい身体をあやすように撫でる。


「……大和はまだ、お父さんに会っていないんだから」


 ――父だって、誕生した五男に会ってはいないのだから。


 会いたいにきまっている。


「大和だって会いたいよね? お父さんはね、とってもかっこよくて、とっても優しいんだ」


 ――だから。

 ――ボクがかならず会わせてあげるから……。



 まだ自分も子どもだからできないことのほうが多いけれど、兄として弟を世話し護っているところを父に見てほしい。

 そして、あの優しい手で頭を撫でてもらいながら「一二三も立派なお兄ちゃんになったね」と褒めてもらいたい。

 まだまだ自分も父に甘えたい、遊んでほしい。


 ――お父さんに会いたい。


「だから、大和。泣かないで」


 末弟が泣くたびに一二三はその小さな身体を撫でながら、どうしたら父をこっそり助けることができるのだろうかと幼いなりに懸命に考えていた。

 父の死を見たいわけではない。誰がそれを望むものか。

 けれどもそこに行かなければ、父には会えない。


 ――万が一の可能性にたどり着くためには、そこに行くしかないというのに。


「どうしたら……」


 いいのだろうか。

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