連休のとなり
ゴールデンウィークは、少しだけ世界が緩む。学校がないだけで、時間の流れが違うみたいに感じる。その中で、君と会う約束をしただけで、今日はもう特別だった。
「待った?」
駅前で、君が手を上げる。私服の君は少しだけ新鮮で、いつもより近く感じる。
「今来たとこ」
「嘘っぽい」
笑いながら、当たり前みたいに隣に並ぶ。距離が、最初から近い。
「どこ行く?」
「決めてない」
「は?」
「歩きながら決める」
適当すぎる。でも、その適当さに安心してしまう自分がいる。
商店街に入ると、人の多さに少しだけ押される。自然と距離が縮まる。肩が触れる。離れようとすると、今度は君が寄ってくる。
「迷うなよ」
「迷ってない」
「顔」
そう言って、僕の手首を軽く掴む。そのまま、人混みをすり抜ける。
手は、離れない。
「……もういいでしょ」
「まだ多い」
理由をつけて、握ったまま。外に出ても、少しだけそのままだった。
「……君さ」
「ん?」
「手」
「あ」
やっと気づいたみたいに、少しだけ緩める。でも、完全には離さない。
「別にいいだろ」
「よくない」
「なんで」
なんでって、こっちが聞きたい。
人通りが落ち着いたところで、やっと手が離れる。少しだけ、物足りない。
「腹減った」
「さっきからそればっか」
「なんか食う?」
「さっき来たばっかだよ」
「じゃあ軽く」
軽くってなんだろうと思いながら、屋台みたいな店に寄る。君は迷わず買って、当たり前みたいに半分渡してくる。
「はい」
「……自分で買えるけど」
「知ってる」
そう言いながら、僕が受け取るのを待っている。
断れない。
一口食べる。少し熱い。
「どう?」
「普通」
「そればっか」
笑う。その顔を見ると、どうでもよくなる。
近くの公園に入る。ベンチに座ると、さっきまでのざわざわが嘘みたいに静かになる。
「なんかいいな」
「なにが」
「こういうの」
君は空を見上げる。
「何も決めずにさ、だらだらするやつ」
その横顔が、少しだけやわらかい。
「……友達だからでしょ」
そう言うと、君は少しだけ黙る。
「それだけ?」
聞き返される。
困る。
「それ以外、あるの」
「……どうだろ」
はっきりしない答え。でも、否定もしない。
風が吹く。少しだけ寒い。
「寒くね?」
「ちょっと」
言った瞬間、君が少し近づく。肩が触れる。そのまま離れない。
「これでいいだろ」
「よくない」
「寒いって言ったじゃん」
言い返せない。
距離が近い。近すぎる。でも、逃げる理由も見つからない。
「なあ」
「なに」
「最近さ」
「うん」
「お前、俺といるとき静かじゃね?」
心臓が跳ねる。
「普通だよ」
「違う」
即答。
「なんか考えてるだろ」
見られてる。
「考えてない」
「嘘」
少しだけ顔を覗き込まれる。
近い。
目が合う。
逸らせない。
「……なに」
「別に」
そう言いながら、少しだけ視線を外す。
君も、少しだけ落ち着かない顔。
沈黙が落ちる。でも、嫌じゃない。
そのまま、少しだけ時間が流れる。
「なあ」
「なに」
「明日もさ」
「うん」
「会う?」
また、当たり前みたいに言う。
予定なんて聞かない。
「……いいよ」
「じゃあ決まり」
嬉しそうに笑う。
その顔が、ずるい。
「あとさ」
「なに」
「GW終わっても、たまにこういうのやろ」
少しだけ驚く。
「学校あるけど」
「放課後でいい」
即答。
「……なんで」
聞いてしまう。
君は少しだけ考えてから言う。
「落ち着くから」
またそれ。
でも今度は、少しだけ違う気がする。
バス停が見えてくる。
この時間が終わる。
少しだけ、惜しい。
すると、君が僕の袖を軽く掴む。
「なに」
「なんとなく」
離さない。
さっきの手みたいに。
言い訳みたいに。
でも、ちゃんと掴んでる。
「……離して」
「バス来るまで」
またそれ。
でも、もう強く言えない。
バスが来る。君が手を離す。
「じゃ、また明日」
「うん」
ドアが閉まる。
窓越しに、君が手を振る。
僕も、少しだけ振り返す。
席に座って、思う。
特別なことは、何もしてない。
ただ、一緒にいただけ。
でも。
それだけで、こんなに満たされる。
ゴールデンウィークは、まだ続く。
君との時間も、まだ続く。
この距離が、少しずつ変わっていくことに、気づいているのはきっと僕だけじゃない。
でも。
まだ言わなくていい。
今はまだ、このままでいい。
君のとなりで、少し近すぎる距離のまま。




