ストーカーではありません!誤解です!
九の月十二日
午前七時 起床
朝食
登校準備
午前九時 学園登校
午後三時 帰城
ティータイム
書類仕事
入浴
午後六時 晩餐
書類仕事
午後九時 読書
就寝
午前のご様子
今日の起床は、声をかけられてから目覚めまで三分遅かった。
昨夜の就寝時間が二十分遅かったためかと思われる。
朝食は完食。
デザートをゆっくり食べていたため、好物だった模様。
体調不良の兆しなし。
学園でのご様子
休憩時間に、ご学友と講義内容について討論。
体調の悪そうなご令嬢に、優しく声かけをする。
昼食は肉料理を注文。
残さず完食。
紅茶に砂糖を入れていたので、少しお疲れの様子。
午後の魔法訓練では、指導フォローにまわる。
午後のご様子
執務室にて書類仕事をこなす。
宰相補佐官と納税について話をする。
入浴にて怪我と体調の確認。
問題なし。
晩餐は食堂にて、ご兄弟と食べる。
言葉数がいつもより少なく、お疲れの様子。
読書の時間が長引き、三十分ほど就寝が遅くなる。
九の月十三日
午前七時 起床
朝食
登校準備
午前九時 学園登校
午後三時 帰城
ティータイム
書類仕事
入浴
午後六時 晩餐
書類仕事
午後九時 読書
就寝
午前のご様子
今日の起床は、いつも通りに目覚める。
使用人へ声かけをする。
朝食はデザートを残す。
苦手な甘さだった模様。
体調不良の兆しなし。
学園でのご様子
休憩時間に教師に質問する。
ご学友に難問を解説する。
昼食は魚料理を注文。
残さず完食。
紅茶を注文せず。
午後の訓練のためかと思われる。
午後の剣術訓練では、模擬試合を行う。
総合三位の結果。
午後のご様子
執務室にて書類仕事をこなす。
宰相補佐官数名と、鉱山の支出入について議論。
入浴にて怪我と体調の確認。
体調は問題なし。
剣術訓練の擦り傷が複数。
薬を塗布。
晩餐は食堂にて、ご家族と食べる。
国王陛下と仕事の話を始め、王妃陛下に怒られる。
就寝時間はいつも通り。
九の月十四日
午前七時 起床
朝食
登校準備
午前九時 学園登校
午後三時 帰城
ティータイム
書類仕事
入浴
午後六時 晩餐
書類仕事
午後九時 読書
就寝
午前のご様子
今日の起床は、…………
…………
…………
体調不良の兆しなし。
学園でのご様子
休憩時間に、…………
…………
…………
…………
午後の…………
午後のご様子
…………
…………
…………
九の月十五日
午前七時 起床
朝食
午前九時 剣術訓練
午前十一時 午餐
午後一時 王都視察
午後四時 帰城
ティータイム
入浴
午後六時 晩餐
書類仕事
午後九時 読書
就寝
午前のご様子
…………
…………
…………
視察でのご様子
…………
…………
…………
午後のご様子
…………
…………
…………
九の月十六日
…………
…………
――――――
毎日の記録は重要だ。
放置すれば、何があったかすぐに忘れてしまう。
だから毎日書いているのだけど、つくづく私には向いてないと思う。
日記だって三日で終わる私が、毎日記録するなんて地獄に等しい。
誰か変わってくれないだろうか。
記録だけではない。
生活を見守り、休日の視察を見守り、お忍びも見守る。
私に休みなど皆無だ。
毎日毎日、第一王子に気づかれないようにこっそりと見守る。
その日の体調、好き嫌い、接触した人物。
全て観察して記録する。
それが私の使命だ。
見守っていて思ったことは、第一王子は要領がいい。
無駄がないのに、力を入れすぎず適度に抜いている。
かと言って真面目で頑固ということはなく、定期的に護衛を撒いてお忍びに出ている。
まぁ、こっそり護衛はついていると思うが。
ある程度自由にしつつ、枠からおおいにはみ出さないのが我が国の第一王子だ。
枠からはみ出しすぎることがないので、見守りは案外楽だ。
時間通りに動いてくれると、こちらもやりやすい。
でも逆に言えば、狙われやすいとも同義なので、なんとも言い難い。
……え?私が誰かって?
私はルルカ・ロワール。
ロワール伯爵家の長女で、趣味は人間観察と隠密。
影が薄いと言われがちだけど、よろしくお願いします!
それはさておき、今日も見守りを……
「ルルカ・ロワール嬢?」
「ひゃいっ!」
びっくりした。
影が薄い私に話しかけてくる人がいるなんて。
影がが薄いせいで一人も友人がいないし、教師からもよく忘れられるのに。
バクバクする心臓を宥めて振り返ると、そこにいたのは第一王子の側近候補兼ご学友のハクライ・マーレイ侯爵子息だった。
「突然すまない。少し話があるので、ついてきてくれないか?」
「……か、かしこまりました。」
本音を言えば、着いて行きたくない。
マーレイ侯爵子息は、とてもモテる。
婚約者がいないので、ご令嬢方が狩人のように狙っているのだ。
そんな彼に声をかけられ、あまつさえどこかに行ったと知られれば、ヤられる。
明日からの学園生活が…………あれ?
問題ないのでは?
だって、影薄いし。
友人いないし。
一瞬ビビったけど、よく考えれば問題なかった。
連れて来られたのは、王族専用サロン。
ですよね〜
側近候補兼ご学友が呼び出すってことは、そう言うことだよね……
嬉しくない予想が的中した。
「失礼します。ロワール嬢を連れてきました。」
「あぁ、ありがとう。ロワール嬢、こちらに座って。」
第一王子に促されるまま、正面に座る。
マーレイ侯爵子息は案内だけのようで、サロンに入らず帰って行った。
机には美味しいそうなお菓子と紅茶。
美味しいそうなのに、緊張で手が伸びない。
この状況でなければ、喜んでいただくのに。
このサロンも椅子も落ち着かない。
こんな豪華な部屋に入ったことがない。
あれらの調度品は、いったいいくらするのだろうか?
少し見ただけで高級品だと予想できる。
恐ろしい。
椅子だってそう。
硬くなく、かと言って柔らかすぎず、絶妙にフィットする感じが気持ちいいけど怖い。
伯爵令嬢如きが座っていいものではない。
でもこの椅子でウトウトしたら気持ちいいだろうなぁ。
金額を考えると、とてもじゃないが手に入らないけど。
「さて、君にきてもらったのは、伝えたいことがあるからなんだ。」
私の緊張をよそに、第一王子が話し始める。
「君の気持ちは受け取った。私もそれに応えようと思う。」
…………は?
「君を私の婚約者にしようと思うんだ。」
「ど、どういうことですか?」
「ん?だって、君は私のことが好きだろう?」
…………え??
「いつからかはわからないが、君はずっと私を見ていただろう?どこに行っても、君の存在に気づいていた。運命など信じないし、偶然なわけがないから、君はずっと私をストーカーしていたのだろう?私のことを好き過ぎて。」
してませんけどぉぉぉぉぉぉ!?!?!?
ストーカーなんて、断じてしてませんけど!?
好きでもありませんけど!?
「初めは鬱陶しいと思っていたけど、段々と健気で可愛いと思ってね。好きだけど、恥ずかしくて声をかけられなかったんだよね。すごくいじらしいなぁ。そんなに想われているなんて、思わなかった。だから父に、君を婚約者に推薦しようと思ったんだ。」
頬を薄く染めて照れ笑いをする第一王子は、さすが美形で絵になる。
……じゃ、なくて。
ご、誤解ーーーーー!!!!
誤解ですからぁぁぁぁぁぁ!!!!
私は、ご・え・い!!!
ストーカーじゃなくて、護衛なんですぅぅぅぅ!!!!
そう。
私は正真正銘、第一王子の護衛である。
表の護衛ではなく、裏の、影の護衛なのである。
つまり、これは仕事なのだ。
まぁ、少し趣味も入ってなくもない。
でも、影の護衛なので、真実を勝手にバラすわけにはいかない。
国王陛下への推薦って、これほぼ決定……?
……あれ?
これ、詰んだ……?
私は心の中で、頭を抱えた。
そもそも、何故私が影の護衛をしているかと言うと、私の家が関係している。
我がロワール伯爵家は、代々王家の影を務める家系なのだ。
王家の妊娠がわかると子作りを始め、違和感なく近くにいられるように年齢を合わせるのだ。
私は物心つく前から影の仕事を学び、自分の特性と才能もあって第一王子の影の護衛に任じられた。
そうして私は八歳から、ずっと第一王子を影ながら見守っているのである。
かれこれ七年の付き合いだ。
第一王子は知らないだろうけど。
つまり七年間ストーカー……じゃない、見守りをしているのだ。
と言うより、何でバレた!?
元々の特性で影が薄いのに加えて、訓練で気配を消したり、誤魔化したりできるようにしたのに。
他の誰も気づいてないのに、何で!?
「そういうことだから、よろしくね、可愛い婚約者さん?」
こうなったら、私の返答は一つしかない。
「……よ、よろしくお願いしますぅ……」
引き攣った笑顔でそう答えるしかなかった。
……え?これ、報告の記録にも載せないといけないの?
…………マジで??
こうして私は、影の護衛兼次期第一王子妃として、裏から表に引き摺り出されるのであった。
何でこうなったのぉぉぉぉーーーー!!!!!
追記報告
第一王子は意外に鋭いが、ポンコツでもあった。
あと、少し自意識過剰である、マル。




