最悪の出会いと、最悪の配属
私は完全に頭に血が上っていた。
「私のことは何とでも言えばいいです。でも――
カケルさんのことだけは悪く言わないでください!
歌を聞いたこともないくせに、想像だけで勝手なこと言わないで!」
叫ぶように言い返す。
森野さんは冷めた目でこちらを見つめたまま、
「どーせ、見た目だけチャラチャラした奴なんだろ?
想像しなくても分かるわ」
と吐き捨てた。
その声がカケルさんとよく似ているせいで、胸の奥がきゅっと痛む。
「なんで……なんであんたみたいな嫌な奴が、
カケルさんと同じ声してるわけ!? 本当にムカつく!」
堪えきれずに言い放つと、
「悪かったな!
俺は生まれてこの方、この声で生きてんだよ!」
と怒鳴り返された。
「あーもう嫌!
カケルさんの声で汚い言葉使わないで!
あなたって態度だけじゃなくて言葉遣いまで悪いのね!
そんな人がカケルさんと同じ声とか、耐えられない!」
「はぁ? 知らねえよ!
俺にお前の都合を押し付けんな!」
……とまあ、私と森野さんは出会い頭で大喧嘩をしたわけだ。
今思えば、確かに私も悪かった。
でも、ずっと大切にしていた人を馬鹿にされたら――
誰だって怒ると思うんだよね。
そのおかげで、研修期間中、私と森野さんが口をきくことは一切なかった。
だからこそ私は、
「絶対に玩具売り場には配属されないだろう」
と信じていた。
そう……思っていたのに。
「柊さんは玩具売り場ね。で、教育係は森野くんだから」
店長が満面の笑みで辞令を手渡してきた。
「う……そ……」
目の前が真っ暗になる私に、店長が楽しそうに言う。
「いや~聞いたで~?
出会い頭に喧嘩したんやって?」
肩をぽんっと叩かれ、ますます絶望する。
「店長……せめて教育係を杉野チーフに……」
「ダ~メ! 森野くんと仲良くなってや~!」
と笑いながら去っていく店長。
こうして “鬼” ……もとい、森野さんの新人教育が始まったのだった。




