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推しと同じ声なのに性格最悪でした

私の新人研修は、サービスセンターから始まった。

ラッピング経験がなかった私は、贈答用包装や熨斗の付け方を必死に覚え、やっと慣れた頃には新生児用品売り場へ異動。

その後も、ベビー雑貨、マタニティー、ギフト、催事……そして最後に玩具・文具・ファンシー売り場まで一通り研修を受けた。


「今日から、うちの売り場で一週間研修することになりました。柊 明日海さんです」


杉野チーフの紹介で挨拶していた時のこと。


「じゃあ、一人ずつ自己紹介しましょうか。まずは……森野くんから」


その名前を聞いた瞬間、胸がドキッと跳ねた。


スラリとした長身。

短く整えられた髪は、顔立ちの美しさを際立たせている。

切れ長の涼しげな瞳。凛々しい眉。すっと通った鼻筋。引き締まった薄い唇。


芸能人かと思うほど綺麗な人で、思わず見とれていると――


「森野です」


低く落ち着いたその声。


……間違いない。

CDをもらったあの日の声より大人びてはいるけど、私が聞き間違えるわけがない。


胸が一気に熱くなる。


「その声……って、カケルさん? 森野さん!

歌! 歌を歌っていませんでしたか!?」


気づけば叫んでいた。


すると森野さんはムッとした顔になり、


「それ……嫌味?」


と、冷たく返してきた。


「こら! 森野くん、すぐ喧嘩売らない!」


杉野チーフが慌てて割って入る。


「ごめんね、明日海ちゃん。森野くんは酷い音痴なの。

だから歌は絶対に歌わないのよ」


困った顔で言われたけれど――


「でも……」


私は食い下がりそうになる。


すると森野さんは鼻で笑い、


「誰と間違えてるのか知らないけど……

俺と声が似てるなんて、その歌手、致命的に下手なんだろうな」


その言葉に、胸の奥でカチンと音がした。

「何も知らないくせに、馬鹿にしないでください!」


思わず怒鳴っていた。


「馬鹿にするも何も、お前が勝手に間違えただけだろうが!」


大好きな“カケルさん”と同じ声が、私を刺すように否定する。


堪えきれずに言葉がこぼれる。


「そもそも、お前の好きな“カケル”って誰だよ?

そんな名前、聞いたこともないけど」


森野さんの言葉に、胸がぎゅっと縮む。


「もう解散したアマチュアバンドのボーカルです。

間違えてすみませんでした……。

顔もちゃんと知らないし、本名だって分からない。

メンバーの方が“カケル”って呼んでた名前しか……。

でも……声を聞き間違えたことなんて、一度もなかったのに……」


自分でも情けないほど弱々しい声になる。


森野さんは冷たい目のまま、鼻で嘲るように笑った。


「アマチュア? ハッ。

結局プロにもなれなかった下手くそなんだろ?

くだらねぇ」


その一言で、心の中で“プツン”と何かが切れた。


「……何も知らない癖に、馬鹿にしないでください!」


私は顔を上げ、まっすぐ彼を見た。


「そりゃ、私が出会ったのは十年前ですし、

その後ライブにも行ってないですよ。

でも……カケルさんの声が……歌が、

ずっと私を救ってくれたんです。

だから……馬鹿にしないでください!」


必死に訴える私を見て、杉野チーフが慌てて仲裁に入る。


「へ、へぇ〜……。

でもそんなに大切な人と声が似てるなんて、すごい偶然ね。

森野くんの親戚とかじゃないの?」


チーフの必死のフォローも虚しく、

森野さんは冷めた瞳のまま、私を見下ろして言い放った。


「アマチュアバンドの歌が心を救う?

馬鹿じゃねぇの。

そんな偉大な人が、俺と同じ声だって?

……たかが知れてるな」


そしてもう一度、鼻で笑った。


その笑いは、

十年間大切に抱えてきたものを踏みにじられる音だった。


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