孤独を救った歌声(後編)
そんなある日、母が突然“再婚する”と言い出した。
いつも「忙しい」と言って私に背を向けてきた母が、
再婚相手とはデートができる──その事実がどうしても許せなかった。
高校生にもなって、抱きしめて欲しいわけじゃない。
ただ少しでいいから、食事をしたり、話を聞いてくれる時間が欲しかった。
祖父母が亡くなってから、私はずっと孤独だった。
その孤独に耐えられたのは、カケルさんの歌声があったからだ。
「大丈夫だよ」と包み込んでくれるような優しい声が。
それなのに母は、自分だけ幸せになろうとしているように見えた。
まして新しい父親なんて──考えられなかった。
「せめて一言、相談してくれたら……」
そう思うたびに、私は母を憎んだ。
今思えば、母も私も余裕がなかっただけなのかもしれない。
でも、当時の私にはそれが理解できなかった。
結局、私が反発しても再婚話は勝手に進み、
嫌々参加した食事会で、再婚相手が“中学時代の担任”だと知った。
その瞬間、怒りと失望が一気に噴き出した。
「再婚は勝手にすればいい。でも私は養子にならないし、一緒にも暮らさない」
私は二人に、半ば絶縁状のような言葉を叩きつけた。
***
そして母の再婚と同時に、
私は都内の短大に進学して一人暮らしを始めた。
学費は祖父母が遺してくれた学資保険で賄い、
生活費はすべてアルバイト。
仕送りも拒否し、苗字も祖父母の「柊」のままにした。
学生生活は、学校とバイトで毎日が過ぎた。
飲食店、コンビニ、本屋、ティッシュ配り、テレオペ……
あらゆるバイトを経験し、その中で自分は販売に向いていると感じた。
短大卒業後は、関西に本社を持つ赤ちゃん用品の量販店へ就職。
全国展開する中で、偶然にも──
あの日、カケルさん達 Blue Moon と出会った従姉妹の家がある地域へ配属された。
伯母さん達は家に住んでいいと言ってくれたが、
私は一人暮らしを続け、店の近くのアパートを借りた。
研修期間は店舗の全売り場を回り、
店長が適性を見て配属先を決めるシステムだった──。




