資格なんてないと思っていた
「いきなり俺の声を聞くなり、『カケルさん!』って叫ぶし……。
あの店では、過去を封印してたから本気で焦ったんだよ」
「知らなかったとはいえ……すみませんでした」
小さくなる私の頭を、森野さんは大きな手でガシガシ乱暴に撫でた。
「……別に責めてるわけじゃない。
──その後、お前が屋上で大の字になって、俺たちの曲を口ずさんでたのを見てさ。
もしかして……って思い始めた」
あの日の醜態を思い出して、顔がまた熱くなる。
「も、もう!それは忘れてください!」
やめさせようと肩を叩こうした瞬間、
森野さんの手が私の手をすっと掴んだ。
真剣な眼差しが、まっすぐに私を捕らえる。
「お前の部屋で……俺たちのCDを見つけて、
“あの時の女の子”だって確信した瞬間、ショックだった。
……何でか、分かるか?」
あまりに真っ直ぐな瞳に、言葉が喉に詰まって、
私は小さく首を横に振るしかできない。
森野さんは、かすかに息を吸った。
「負けず嫌いで……何に対しても一生懸命なお前に惹かれてた。
……でも俺には、清香のことがあったから。
お前を好きになる自分を、ずっと否定し続けてたんだ」
悲しげに揺れる瞳。
胸が締め付けられる。
「俺に……誰かを好きになる資格なんて無いと思ってた」
——その瞬間。
あの夜、店長と話していた森野さんの言葉が蘇る。
『俺があいつを好きになる事は無い』
あれは、そういう意味だったんだ。
全身がじんと熱くなって、涙が滲む。
「お前が……あの時の子だって知って、
尚更……手を出しちゃいけないと思った」
ここまで話すと、
掴んでいた私の腕から、森野さんの手がそっと離れる。
「もう誰も好きにならないって思ってた。
なのに……いつの間にか、お前の笑顔とか、
俺に向かってくる姿とか……全部に安心してる自分がいて」
森野さんは、両手で顔を覆った。
「気づいたら……お前を目で追ってた。
自分の気持ちを自覚した瞬間……
本当に……苦しかったんだよ」
吐き出すように言って、
顔を覆ったまま小さく笑った。
「……こんな情けない奴で、ガッカリしただろう?」
「そんな……」
私は必死に首を横に振り、
そっと森野さんの手に触れた。
震えていた。
ほんの少し——けれど、確かに。
こんなに強い人が、
こんなに優しい人が、
こんなふうに震えるほどの想いを抱えていたのだと思うと、
胸が張り裂けそうだった。




