運命をつなぐファンレター
森野さんの言葉に胸が痛み、私は俯いた。
すると静かな声で、
「……軽蔑するか?」
不安に揺れる漆黒の瞳と視線がぶつかる。
「……軽蔑なんて、しません。
森野さんなら……女性が放っておかないのも、分かりますし……」
絞り出すように言った瞬間、
視線の強さに喉がきゅっと詰まった。
森野さんはふっと視線をそらし、再び夜空を見上げる。
「そんな俺が……立ち直れたきっかけは、お前だった」
一瞬、呼吸が止まった。
思わず顔を上げて森野さんを見ると、
月明かりに照らされた横顔がかすかに笑っていた。
「……お前さ。俺にファンレター、くれただろ」
「……えっ」
突然の言葉に、胸の奥で封印していた記憶が流れ込む。
両親の離婚、転居、知らない街。
泣きながら書いた長い長い手紙。
——“カケルさんの歌があるから大丈夫”
従姉妹に託した、あの幼い文字の手紙。
顔から火が出るほど恥ずかしくなって、私は両手で頬を覆った。
「一番荒れてた時期に、偶然……その手紙が出てきたんだよ」
森野さんは、懐かしいものを語るように続ける。
「分厚い封筒に、お前の気持ちがぎっしり詰まっててさ。
久しぶりに読んだら……
荒んだ生活をしてた自分が、急に情けなくなった」
優しく笑う声が、月光の中に溶けていった。
「え……?」
戸惑う私に、森野さんは視線を向ける。
「あの店ってさ。
出会った頃のお前みたいな子が、たくさん来るんだよ」
嬉しそうにキラキラと目を輝かせて、
おもちゃを抱えて笑う子供たち——。
「その度にさ、
“しっかりしろ”って……あの時のお前に背中押されてる気がしてた」
胸の奥がぎゅっと掴まれる。
「いつだって……俺はお前の存在に助けられてた。
あの店で働くようになって、
その“あの時の子”と偶然再会できた時……
胸を張れる自分でいようって、初めて思えたんだ」
「うそ……」
震えた声で呟くと、
森野さんはゆっくりと視線を合わせてきた。
「そしたらそのしばらく後に……
やたら生意気な女が現れてな」
そう言って私から視線を外し、
思い出したようにフッと微笑む。
その微笑みが、たまらなく優しくて、切なかった。




