再会はスポットライトの下で
チケットを手に、私は大きなホールの前に立っていた。
「森野君、すっかり有名人になっちゃったよね……」
隣で笑う平原チーフが、懐かしむように微笑む。
あの花見の日から、もう一年が経っていた。
森野さんの歌声は、あの日の迷子センターで誰かが動画を上げてしまい、瞬く間に拡散された。
お店には“カケル”の復活を噂するファンが押し寄せ、森野さんは店頭に出ることすらできなくなる。
結果、退職するまでの間はずっと、事務仕事だけを担当することになってしまった。
元々、整った顔立ちをした人ではあった。
けれどネットに歌声が流れた瞬間、その人気は爆発した。
そして6月……森野さんは惜しまれながら退職したあと、ずっと彼の復帰を待っていた Blue Moon のメンバーが再集結して、電撃デビューを果たした。
大手レーベルからのメジャーデビュー。
そこからはもう、手が届かないほど遠い世界の人になってしまった。
本部も全店を挙げて応援していて、事務所には毎日のようにポスターが貼られた。
そんなある日、お店に森野さんから ライブチケット が届いた。
私はファンクラブで当選した席で入るつもりだったのだが、添えられた手紙にしっかりとこう書かれていた。
『皆さまの分をご用意しました。決して個別に購入しないでください』
ホールの二階、招待席のゾーンへ案内される。
見渡すと、一階も二階もどんどん埋まっていく。
「すごいよね~。発売してすぐソールドアウトだなんて」
パンフレットをめくる平原チーフは、まるで息子の成功を喜ぶ母親みたいに目を細めていた。
パンフレットに写る森野さんは、個人ショットだとどこか険しい。
けれどステージで歌う姿は、眩しいほど綺麗で——
やっぱり“ライトの下の人”なんだと、胸の奥でそっと呟いた。
開始のベルが鳴る。
照明が落ち、会場の空気が一変する。
それぞれの立ち位置に影が現れた瞬間、
「キャーッ!」
という悲鳴のような歓声が上がった。
スティック音が四回鳴り、スポットライトが一斉に灯る。
そして——森野さんの歌声が響き渡った。
澄んでいて、透明で、聴いた瞬間に心の奥が震える声。
(あぁ……やっぱり森野さんの歌声は、心に染み渡る)
私はただ、息をするのも忘れるほど聴き入っていた。
ライブはトークを交えて進み、他のメンバーが森野さんをいじって笑わせる。
不愛想だったはずの森野さんが、ステージで楽しそうに笑っている。
その姿に胸が熱くなる。
眩しいライトに包まれて歌う森野さんは、
まるでずっと前から——いや、生まれた時から
“そこに立つべき人”だったのだと思った。




