孤独を救った歌声(前編)
森野さんとは、出会いから最悪だった。
***
私の両親は結局離婚し、私は母親に引き取られた。
父の度重なる浮気に、母が三行半を叩きつけたらしい。
母に連れられ、私たち親子は母の実家に身を寄せることになった。
引っ込み思案だった私は、友達と離れるのが本当に嫌だった。
けれど、住んでいた家は売りに出されることになり、私に選択肢はなかった。
祖父母はとても優しく、忙しく働く母の代わりに私を可愛がってくれた。
母は看護師資格を取るため、昼は病院で助手として働き、夜は看護学校へ。
食事は祖母が作ってくれ、授業参観は祖父母が来てくれた。
私は疲れた顔をした母に迷惑をかけないよう、勉強も家の手伝いも率先して行った。
「明日海、あんまり無理するんじゃないよ」
そう言って優しく頭を撫でてくれた祖父。
寡黙な人だったけれど、誰より私を見ていて、いつも励ましてくれた。
祖母は明るく温かい人で、料理上手だった。
春になると必ず作ってくれるフキの煮物は、今でも忘れられない。
喧嘩ばかりの両親と暮らしていた頃よりも、
祖父母との穏やかな生活は何より幸せだった。
***
新学期に間に合うように転居できたおかげで、友達も思ったより早くできた。
特に野木綾子、大矢由香とは“3人トリオ”と呼ばれるほど仲が良かった。
何をするにも一緒だった──
だが、あこの好きな木本くんが私を好きだと知り、関係に亀裂が入った。
いつも一緒だったからこそ、あの時は本当に辛かった。
そんな私を救ってくれたのが、カケルさんの歌声だった。
***
辛い日々を乗り越えてクラス替えを迎え、
“新しい友達を作ってやり直そう”と思った矢先。
祖父が病で倒れ、急逝した。
さらに半年後、それを追うように祖母も他界した。
小学校六年生の出来事だった。
大好きな祖父母を失い、私は失意のどん底にいた。
傷が癒えないまま、母の転職とともに転居を繰り返す生活が始まる。
転校が続くうちに、私は深く人と関わるのが怖くなっていった。
仲間外れにされるのが怖くて、いつも人の顔色を伺い、
本音を見せられない人間になっていた。
***
そんな私を変えてくれたのが、高校時代に出会った先輩だった。
彼は真正面からぶつかってきてくれる人で、
「お前の本音を聞かせろ!」
と、いつも私を真っ直ぐ見てくれた。
彼のおかげで、人と壁を作らず向き合えるようになったと思う。
けれど──
人としては好きでも、異性としては好きになれなかった。
キスまでは大丈夫でも、それ以上を求められると応えられなかった。
やがて関係はぎくしゃくし、別れてしまう。
祖父母の死、彼との別れ。
転居と転校。
根無し草のような生活の中で、母との関係も修復できないほど深い溝が生まれていた。
孤独な日々でも、
どれほど辛くても苦しくても、
CDから流れてくるカケルさんの歌声だけは、私を支えてくれた。
そしていつしか、
カケルさんの歌声は私にとって唯一無二の心の拠り所となっていた。




