子どもにだけ優しいその笑顔がずるい
「まいちゃんか~。まいちゃんのお兄ちゃんは、カッコいいな」
森野さんが、それはもう子どもにしか見せない“無防備な全開スマイル”でまいちゃんに言った。
小さくても、やっぱり女の子。
まいちゃんは頬を真っ赤に染めながら、
「うん! まいのお兄ちゃんは、世界で一番カッコいいの!」
と胸を張った。
すると、涙を堪えていたお兄ちゃんが、
「まいの馬鹿! 恥ずかしいだろ、そんなこと言うなよ!」
と叫んで顔を赤くしている。
森野さんはそのお兄ちゃんをそっと下ろすと、
「恥ずかしくなんかないよ。妹に“カッコいい”って言われるお兄ちゃんは、世界で一番カッコいいんだから」
と優しく頭を撫でた。
(くぅ~~~! 羨ましい!)
森野さんの“子どもにだけ向ける無敵の笑顔”。
あれが大好きで……でも私に向けられることは一生ない。
そう思って胸がきゅっと縮んだ、その時だった。
「迷子の迷子の子猫さん~♪
あなたのおうちはどこですか~♪」
まさかの……森野さんが歌い出した。
「えっ!?」
驚いて顔を見ると、兄妹と両手を繋ぎ、三人で歌を唄いながら歩き始めている。
「お兄ちゃん、つぎはお星さまの歌うたって~!」
まいちゃんが無邪気におねだりする。
「お星さまの歌?」
森野さんが首を傾げると、兄妹が元気よく、
「き~らき~らひかる~♪
よぞらのほしよ~♪」
と歌い出した。
「ああ、それか」
そう言った次の瞬間。
「Twinkle, twinkle, little star~♪」
流暢すぎる英語で歌い出す森野さん。
「お兄ちゃん何その歌~!」
「へんなことば~!」
と兄妹が大笑いしている。
(し……知らないって恐ろしい……)
少し離れたところで見ているだけで、胸が苦しくなるくらい優しい時間だった。
森野さんは二人を迷子センターに連れて行き、担当の人にしばらく状況を説明していた。
帰ろうとしたその時——
「ヤダヤダ! まだいっしょにお歌うたうの!!」
まいちゃんが森野さんに抱きついて、ギャン泣き再スタート。
「じゃあ……お母さんたちが来るまで、な」
そう言って、森野さんは子どもたちのリクエストに応えて歌を唄い始めた。
その声は、本当に……綺麗だった。
迷子センターのスタッフまで聞き惚れている。
恐らく、迷子放送のマイクに歌声が混じってしまったのだろう——
いつの間にか迷子センターには人だかりができていて、
気付けば預かられている子供は12人。
「次はこれうたってー!」
「しぇんたいのやつー!」
「アニソンしってる!?」
「プイキュアーーー!!」
森野さんは、戦隊シリーズからアニメ、童謡まで……片っ端から歌わされていた。
(……こんなの、惚れ直さずにいられるわけないじゃん……)




