迷子の涙と、彼のぬくもり
しばらくして戻って来た森野さんも、普段は無表情なのにどこか楽しそうだった。
日が暮れるにつれて、運転担当の森野さんと山崎さん以外はアルコールが進み、宴会は最高潮。
私はお酒を飲んでいないので、みなさんの酔いっぷりにただただ圧倒されていた。
店長に至っては運転組の二人にまでお酒を勧めようとして、私と杉野チーフは必死で止めるのに大忙しだった。
夜も深まり、四月とはいえ山の上は底冷えしてきた。
私は上着を着ていたけれど、冷え込みにトイレへ行きたくなり、
「すみません、ちょっとトイレに行ってきますね」
と木月さんにだけこっそり伝えて席を立った。
山の頂上近くにある公園のトイレは思いのほか整備されていて、清潔でほっとした。
用を済ませ、みんなのいる場所へ戻ろうとしたその時——
どこからか、子どもの泣き声が聞こえた。
桜のライトアップの照明の下に、小さな兄妹が立って泣いていた。
人混みをかき分けて近付くと、女の子が泣きじゃくり、男の子は困ったようにその肩に手を置いている。
「どうしたの? 迷子になったの?」
森野さんが子どもに話しかける時と同じように、目線を合わせてしゃがみ込んでみた。
すると男の子が不機嫌そうに、
「ほら! お前が泣くから迷子だと思われただろ!」
と言って、妹のツインテールを引っ張った。
途端に女の子はわんわんと大泣きに逆戻り。
「ダメだよ、髪の毛引っ張ったら! お父さんやお母さんはどこ?」
まわりを見渡しても両親らしき姿はない。
男の子は不安をこらえていたのか、目をうるませながら、
「わかんない……。さっきまで一緒にいたのに、急に消えて……」
とつぶやいた。
(いや、それを迷子って言うんだけど……)
苦笑しながら、
「じゃあ、あそこの本部で——」
と案内所のテントを指した瞬間、泣いていた女の子がさらに顔を歪めて、
「お母さんが……知らない人に着いて行っちゃダメって言った……!」
と泣き出した。
(……素晴らしい教育だけど、今は困る……!)
どうしたものかと焦っていると——
「柊? 戻ってこないから見に来たら……何してんだよ」
背中から聞き慣れた低い声。
振り返ると森野さんが呆れたような顔で立っていた。
「お前……泣かせてるんじゃないだろうな。玩具売り場の店員だろ?」
とため息を吐きながら近付いてきたが、すぐに状況を理解したらしく、男の子の頭に大きな手を乗せた。
「頑張ったな。兄ちゃんだから、妹を守ってたんだよな」
そう言って男の子をひょいっと抱き上げた。
その言葉に男の子の目からぼろぼろと涙が溢れる。
「お兄ちゃんは……妹を守んなきゃダメなんだぞ!」
必死に涙をこらえながら袖で顔を拭う姿に胸が痛む。
「偉いじゃないか。名前は?」
男の子に優しく声を掛け、次に女の子に視線を向けると、
「まい……」
と小さく答えた。
——森野さんの抱き方も、声の掛け方も、全部優しい。
胸の奥がじんわりと熱くなるのを感じた。




