表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
51/68

王子争奪戦、火蓋

「陰で王子って呼んでる人がいるのは知ってますけど、本人に言う人は初めて聞きましたよ」


そう言うと、木月さんまで吹き出して笑った。


「横溝がバイトに入ってから、呼ばれるのも挨拶されるのも“王子〜”ばっかりなんですよ。でも開店前や閉店後だったから、全部無視してたんです」


「え……そんな前から?」


杉野チーフが目を丸くする。


「一度、ちゃんと注意したんですよ。社会人として、きちんと名前で呼んでくださいって。そしたら“じゃあ森野王子って呼んでいいですか?”って返されまして……」


ゲンナリした顔で森野さんがうなだれる。


「何とかなりませんか? あいつ」


ほんとうに困りきった声で訴える森野さんに、杉野チーフは苦い顔で答えた。


「彼女、問題行動が多くて……注意はしてるんだけどね……」


その日は「店長に相談する」ということで話は終わった。


──そのまま何事もなく終わると思っていた。


だが、花見の日が近づいたある閉店後、私にも火の粉が降りかかる。


品出しを終えて腰を伸ばしていたときだった。


「柊さん」


3階に私しかいないのを確認して来たのだろう。

横溝さんを中心にした、バイトの女の子たち6人が私をぐるりと囲んだ。


「……何ですか?」


立ち上がり向き合うと、横溝さんはさっきまでの甘ったるい声ではなく、低いトーンで切り出した。


「3Fの人たちだけで花見に行くって、本当ですか?」


普段の語尾を伸ばす喋り方ではない。

あの特徴的な“ぶりっ子声”は影も形もない。


(やっぱり……あの話し方、演技だったのか)


少し感心しつつも、私は答えた。


「行きますけど、3Fだけじゃないですよ。店長も他の階の社員の方も来ます」


すると横溝さんは、きつい目つきで吐き捨てた。


「いつも3Fばっかり森野さんを独占して、よく平気でいられますよね」


「独占って……。私は仕事以外、森野さんと関わってませんよ」


あまりにも理不尽すぎて頭が痛くなる。


だが横溝さんはさらに一歩踏み込んできた。


「ずるいんですよ。社員だからって、教育係が森野さんなんて」


(教育係はお願いしたわけじゃないんだけどな……)


心の中で苦笑したその瞬間──


「前から思ってたけど、ブスのくせに森野さんに色目使ってんじゃないわよ!」


怒鳴り声が落ちてきた。


(……え? もしかして、ずっと敵意むき出しだった理由って、それ?)


驚いて横溝さんを見ると、さらに容赦なく続ける。


「あんたみたいなブスが森野さんと釣り合うとか、マジありえないんだけど」


すると取り巻き達が一斉に口を開いた。


「有り得ないよね!」「己を知れって感じ〜」「厚顔無恥のブスって怖〜」


「美嘉みたいに可愛い人が王子に相応しいのよ! ブスは退いててくれない?」


(王子……本当に王子って呼んでるんだ……)


呆れが勝って、悪口が耳に入らない。


だが彼女たちは調子づき、さらにヒートアップした。


「なんで王子があんたに優しいと思う? ブスを邪険にしたら可哀想だからだよ!」

「王子の優しさを勘違いしないでよね!」


「もしかして柊さん、自分が王子に相応しいと思ってるの? うける〜!」


「ヤバ〜! それマジで痛い人じゃん!」


心無い罵倒が次々に飛んでくる。


でも私は、彼女たちの言葉よりも──

森野さんが「王子」と呼ばれている事実の方にショックを受けていて、


(身の程は……充分、わかっていますよ)


ただ静かにそう思っていた。


その時──


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ