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届かない想いの理由

 なぜか私は、二人の姿を見つけた瞬間、とっさに柱の陰へ身を隠してしまった。


 店長と森野さんが真剣な顔で話している。

 立ち聞きするのはよくない──そう思って、その場から静かに離れようとした、その時だった。


「……柊」


 自分の名前が聞こえて、足が止まった。


 いけない、聞いちゃいけない。

 そう分かっているのに、心が勝手に耳を澄ましてしまう。


「せやったんか……。柊ちゃんが、あの時の子やったんか」


 店長の言葉に、森野さんは苦笑いを浮かべていた。


「正直、今でも……昔の俺らのライブを勝手に録音した音源が出回ってるのは知ってました。だから柊も、どこからかその音源を手に入れた一人だと思ってて……」


「それが、幼いながらに本気で応援してくれてた子やって分かって、動揺した……って事か?」


 店長が少しからかうように言うと、森野さんはギロリと睨みつけてから、小さく息を吐いた。


「あの時の小さな子が柊だと知って……正直、戸惑いました。しかも、今でも俺の歌を“心の支え”にしていると知って……。

 もし、俺があいつの支えにしている“カケル”だって知ったら……がっかりするんじゃないかって……。

 そう考えたら、どう接していいのか分からなくなって……」


「だから、避けてたんか? 可哀想になぁ、柊ちゃん」


 店長がわざとらしく泣き真似すると、


「……最近、柊も俺を避けてるみたいで」


 森野さんが、どこか寂しそうに続けた。


「自分から避けたくせに、避けられたら落ち込むって……勝手な奴やなぁ~」

 店長は吹き出しながら肩を揺らす。


「……こんなに気になるなんて、自分でも思いませんでしたよ。でも……正直、少しホッとしてるんです。

 これで、俺が“カケル”だってバレなくて済むって」


 その言葉に、店長が首をかしげる。


「なんで? バレてもええやんか」


「……あいつにとって、カケルって存在は“心の支え”なんですよ。

 それが……俺だなんて知ったら……あいつは失望すると思うんです」


 空を見上げながら呟く森野さんの横顔は、痛いほど苦しげだった。


「そうかぁ? そんな事ないと思うけどなぁ……」


 店長は優しく笑ったあと、ぽつりと続けた。


「まぁ、悩んだらええやん。久しぶりやろ? 誰かに興味持ったんは」


 その瞬間、森野さんは口を開きかけ──

 悲しそうな笑みを落として、静かに言い切った。


「……でも。俺が、あいつを“好きになる”事はありません」


 その一言が、まっすぐに私の胸へ突き刺さった。


 ──好きになる事は、ない。


 目の前がじわりと暗くなる。


 泣くな。崩れるな。

 そう言い聞かせても、足元から世界が揺らいでいく。


(やっぱり……好きになっちゃダメなんだ)


 会話の続きを聞く余裕なんて、もう残っていなかった。


 私は重く沈んだ足をひきずりながら、その場から逃げるように自分の部屋へと歩き出した。

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