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揺れる想いと、本当の気持ち

 「そっか……。やっぱり、森野君だったんだ……」


 お店が終わったあと。

 私は杉野チーフに誘われ、ご飯を食べに来ていた。


 私の話を静かに聞き終えた杉野チーフは、ぽつりと呟いた。


「なんとなく、そうじゃないかなって思ってたの。柊さんが言ってた“カケルさん”って人……。森野君の反応が、知らない人に向けるものじゃなかったから」


 その言葉に私は頷く。

 ちょうどそのタイミングで、頼んでおいた期間限定のいちごパフェが運ばれてきた。


「とりあえず、食べましょ!」


 笑顔の杉野チーフにつられて、私も自然と笑顔になる。


「ここのパフェ、この時期しか食べられないんだよ~」


 細身なのに驚くほどよく食べる杉野チーフが、嬉しそうにパフェをつつき始めた。


 私もスプーンを入れたところで、ふいに問われた。


「……それで? 真実を知って、森野君を嫌いになったの?」


 スプーンをそっと下ろし、私は静かに首を横に振った。


 杉野チーフは黙ったまま、優しい目で私の答えを待っている。


「正直……“やっぱり”という気持ちと、“別人でいてほしかった”という気持ちがぐちゃぐちゃで……どう整理すればいいのか分からなくて」


 苦笑すると、胸の奥に溜めていた想いが少しずつこぼれ出した。


「ずっと……カケルさんの歌が私の支えでした。

 でも……顔とか細かい記憶は、もう曖昧で。

 私が惹かれたのは、ただ“歌声”だけで……。

 人気バンドが突然消えて、私は残されたCD音源だけを心のよりどころにして生きてきたんです」


 杉野チーフは静かに頷き、私の続きを待った。


「そしてこのお店に配属されて、森野さんに出会って……。最初は“なんて嫌な人なんだ”と思ってました。でも、一緒に働くうちに、尊敬が惹かれる気持ちに変わって……。声が似てるとか、仕事人間だとか……そんなのどうでもよくなって。私はただ“森野さん”そのものが好きになってしまったんです」


 自分でも驚くほど素直に言葉が出てくる。

 それは、杉野チーフが私をまるごと受け止めてくれようとしているからだ。


「でも……森野さんが歌えなくなった理由を知ってしまって……。重すぎて……どうしていいか分からなくなったんです」


 そう言うと、杉野チーフはゆっくりと窓の外を見つめた。


「ねぇ、私……好きな人がいるって、前に話したの覚えてる?」


「え……あ、はい」


「私ね、自分が傷つくのが怖くて、相手が動いてくれるのをずっと待ってたの。……そうしたらね、積極的な後輩に横取りされちゃったの」


 小さく笑う声が、どこか寂しげだった。


「もし、あの時ちゃんと想いを伝えていたら……って、今でも後悔してる。

 だから思うの。

 “先輩の過去を受け止める覚悟があればいいだけ”なんだって」


 そう言って、私の目をまっすぐ見た。


「柊さん。森野君の過去を知って揺れているのは分かるけど……

 それ、覚悟が無いからじゃないんでしょ?」


 責める口調ではない。

 ただ、優しく包み込むように問いかけただけ。


「じゃあ、なんでそんなにギクシャクしてるの?

 あ、森野君が避けてるって話は今は置いといてね。

 私は()()柊さんの気持ちが知りたいの」


 その声が、私の胸にすとんと落ちた。


 杉野チーフは、いつもこうして私を抱きしめるように寄り添ってくれる。

 だから私は、誰にも言えない想いを、この人には話せる。


 深く息を吸って、私はぽつりぽつりと自分の気持ちを語り始めた。


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