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夕暮れに溶けた声

そこには、夕暮れ色に染まり始めた空を仰ぎながら、静かに歌う森野さんの姿があった。


 その歌声が耳に入った瞬間、私の足は震え出した。


(この声……この歌は……)


 聞き間違うはずがない。

 CDにも入っていない、Blue moon の未収録曲。


 あの日、初めて聴いて私の心を鷲掴みにした、あの声だった。


(なんで……?

 どうして森野さんが、この歌を?

 しかも、この声、この歌い方は……)


 愕然と立ち尽くす私の耳に、静かな呟きが届いた。


「……もう、歌わないって決めたのにな」


 森野さんは空に向かって手を伸ばし、苦しげな顔で続けた。


「なぁ……どうしてあいつなんだよ。どうして、今さら……」


 その声が胸を締めつける。

 苦しみを押し殺したようなその響きに、気付けば私の瞳から涙が溢れていた。


(やっぱり……森野さんは、カケルさんだったんだ……)


 なのに──今は、別人であってほしかったと願う自分がいる。

 それがどれほど身勝手なのか分かっていても。


 カケルさんは、輝くスポットライトの下に立つべき人。

 幼い私が惹かれたのは、神々しいオーラを纏った彼の姿と、神様から授かったような美しい歌声だった。


 森野さんが本当にカケルさんだとしたら……

 私は、手の届く相手ではなかったのだと思い知らされた。


 そして──あの日、私の部屋でCDを見た時、森野さんが動揺していた理由(わけ)

ようやく理解できた。


 込み上げる嗚咽を必死で抑え、森野さんに気付かれないよう、そっとその場を離れる。

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