届かない背中の理由
三日間の休みのあいだ、店長の奥様が毎日食事を作りに来てくれたおかげで、三日目にはすっかり元気になっていた。
──けれど。
森野さんからは、あの日以来、一度も電話が来ない。
会いたい。
声が聞きたい。
あと三日で会える、それだけを心の支えにして指折り数える日々だった。
四日目、久しぶりに出勤すると、木月さんや他の売り場の人たちが次々に「心配したよ」と声をかけてくれた。
ありがたい言葉なのに、胸の中心にあるのはただひとつ。
(森野さんに……会いたい)
みんなへの挨拶を終え、私は期待で胸を高鳴らせながら小走りでストック置き場へ向かった。
そこでは、森野さんがいつものように本店からの書類に目を通していた。
「おはようございます」
声をかけると、森野さんはゆっくりとこちらへ視線を向けて、
「……おはよう」
それだけ言うと、すぐに視線を書類へ戻した。
「三日間、すみませんでした。それから……色々と、ありがとうございました」
深く頭を下げる。
でも返ってきたのは、冷たいくらい淡々とした声だった。
「別に。気にしないでいいよ。柊じゃなくても同じことをしたから。
……それより、売り場掃除してきて」
視線すら向けてくれない。
(……優しかったのは、あの日だけ?)
胸にぽっかり穴が空いたような気持ちで売り場に向かった。
けれど──
森野さんの態度は、ここからさらに変わっていく。
「もう一人で仕事できるだろ」
突然そう言われ、私は半ば強引に“完全な一人立ち”をさせられてしまった。
今まで、なんだかんだ言いながらいつも傍でサポートしてくれていたのに。
まるで境界線を引くように、森野さんは急に距離を置くようになった。
(なんで? 私……何かした?)
理由が分からず、仕事中も家に帰ってからも、胸がずっと苦しかった。
背中に声をかけようとしても、森野さんは“話しかけるな”と言わんばかりにそっけない。
そんな状態が一週間続いた頃──
「ねぇ、柊さん。森野君と何かあった?」
杉野チーフに声をかけられた。
私は作り笑顔を浮かべて、かすれる声で答えた。
「分からないんです……。倒れた日から復帰したら、急に避けられるようになっちゃって」
「直接聞いてみたら?」
優しい目でそう言われ、胸がズキっと痛む。
「嫌われたのかもしれないって、ぐるぐる悩んでるよりいいよ。
言わない後悔より、言って後悔した方が絶対いい」
そう言って、そっと私の背中を押した。
「この時間、森野君、いつもの場所で休憩してるはずだから」
軽くウインクする杉野チーフ。
その優しさに、少しだけ勇気が湧いた。
(うじうじ悩むくらいなら……当たって砕けろ、だよね)
覚悟を決め、倉庫の屋上へ続く階段を駆け上がる。
すると途中で、誰かの声が聞こえた。
(誰かと話してる……?)
ゆっくりと、音を立てないように階段を上り、そっと屋上の扉を開けた──。




