あの日の少女と、あの声の記憶
「え?」
私の言葉に、森野さんは驚いたように目を見開き、息を飲んだ。
「この歌声に出会ったのは……ちょうど両親が離婚で揉めていた時期でした。
私は親戚の家に預けられて、寂しくて、悲しくて、辛くて……でも誰にも言えなかった。
そんな時、カケルさんの声が私を救ってくれたんです」
胸の前でそっとCDを抱きしめる。
「カケルさんの歌があったから、知らない土地に転校しても頑張れた。
あの歌がなかったら……今の私は、きっといません」
CDをぎゅっと抱き込む。
「だから、このCDは……私の命よりも大切なものなんです」
そう言い切った時。
森野さんは一瞬、言葉を失ったように私を見つめたまま固まっていた。
やがて、視線をそらし、低い声で短く言った。
「……分かったから。お前はさっさと寝てろ」
それだけ言い捨てて、逃げるように部屋を出ていった。
(え……?)
急な態度の変化に戸惑いながら、私はCDをサイドテーブルに戻し、ふらふらする体でパジャマに着替えてベッドへ潜り込む。
この時の私は、熱でぼんやりしていたせいで気付いていなかった。
──森野さんが尋ねたのは。
『どうして“藤間明日海”宛てに送ったはずのこのCDが、お前の手元にあるんだ?』
という“決定的な質問”だったことに。
そして。
──自分が、あの時の少女だったと悟った森野さんが
どれほど動揺していたかにも、まったく気付いていなかったのだ。




