倒れゆく私を呼ぶ、たった一つの温度
クリスマス・イブを前日に控えた休日。
相変わらず理不尽な問い合わせは続いていたけれど、あの地獄のような売り出しの混乱は、ようやく落ち着き始めていた。
ずっと張り詰めていた神経が緩んだせいなのか、あるいは「明日で終わる」という安心感のせいなのか──。
朝から、身体が重くて仕方がなかった。
(……なんか、だるい)
気力だけで身体を動かし、品出しを続けていると、店内放送が響く。
『3F玩具売り場の方、3F玩具売り場の方。外線お願いします』
ちょうど電話のすぐそばにいた私は、受話器を取った。
「もしもし!」
開口一番、既に怒りを含んだ声。
「はい、玩具売り場です」
そう答えた途端、案の定──
例の、大人気商品についての在庫確認だった。
「申し訳ございません。そちらの商品は完売しております」
丁寧に伝えた瞬間、相手の声がさらに荒れる。
「はぁ!? メーカーに問い合わせても完売! デパートも完売!
だから、あんたみたいなちんけな店に電話してんのよ! どうせ隠してんでしょうが!!」
耳が痛くなるような怒号。
こういう電話、今日だけでも何本目だろう。
うちの店は他より価格が安いぶん、どこよりも早く売れてしまう。
それなのに、なぜ隠しているなどと決めつけられなければならないのだろう。
(……はぁ)
体調の悪さもあり、思わず小さくため息が漏れてしまった。
「ちょっとアンタ!! 今ため息ついた!?
客を馬鹿にしてんの!?」
電話口のお客様の怒鳴り声が、妙に遠く聞こえる。
視界が、じわりと白く滲んでいく。
(あれ……?)
その時。
「おい、柊?」
遠くで、森野さんの声がした。
受話器を持ったまま振り返り、森野さんの顔がぼやけて──
次の瞬間、私はそのまま意識を手放した。




