揺れる胸の奥で、名前を呼べないまま
「じゃあ、明日はお願いします」
翌・土曜日。
森野さんや杉野チーフの言っていた通り、前日とは比にならないほどの客入りだった。
客数が増えれば、当然クレームも増える。
次々と起こるトラブルに私はオロオロするばかりで、その度に森野さんが素早くフォローしてくれた。
翌日、15時以降は私と杉野チーフの二人だけになる。
そのことを思うと胸がざわつき、不安になっていた時──
「明日、森野君お休みですよね?
私、閉店まで残りますよ」
パートの木月さんがそう言ってくれて、私は胸をなでおろした。
森野さんは杉野チーフに引き継ぎをして、いつもより少し早めに上がっていった。
私はというと──
昨日、夜空に消えていった “あの小さな歌声” が、どうしても頭から離れなかった。
でも、そのことを本人に聞く勇気は出ない。
あれは本当に歌だったのか、ただの独り言が歌に聞こえただけだったのか……
不安を消すように、私は何度も首を振った。
(どうして……こんなに胸がざわつくんだろう?)
もし、森野さんとカケルさんが同一人物だったとして。
私にとって何か問題があるわけでもないのに──
それでも胸の奥に広がる“言葉にできない不安”が、じわじわと重く私を締め付けていた。
◆日曜日の朝。
土曜日に買えなかったお客様に加え、日曜日に買い物予定だったお客様が、開店一時間前にはすでに行列を作っていた。
この時点で、仕入れていた数が“整理券配布前に完売確定”するほどの人数。
店長と杉野チーフは急いで話し合い、取りあえず整理券を配ることにした。
近隣の迷惑にならないように開店後の再来店をお願いし、お店の入口には
『〇〇は整理券の段階で完売いたしました』
という貼り紙が貼られた。
それでも杉野チーフは、
「時間を守って来て下さるお客様に販売できないのが申し訳ない……」
と、苦しげに呟いていた。
その時だった。
店内に、店長の館内放送が響いた──。




