控え室への招待
「会長!」
私の手を引くその人を見て、眼鏡の女性が驚いたように声を上げた。
“会長”と呼ばれたその人は、口元に指を当てて、
「し〜っ。内緒でこの子、連れて来ちゃった」
とウインクする。
「内緒って……え、誘拐ですか?」
眼鏡のお姉さんが呆れたように眉を上げると、会長さんは大げさに肩をすくめた。
「そうそう、可愛いからついね……って違うよ!
ブルムンの可愛いファンをお連れしたの!」
その軽妙なノリに思わず笑ってしまう。
会長さんは私をそっと前へ押し出し、
「お宅のダーリン様の小さなファンだよ」
と悪戯っぽく言った。
眼鏡のお姉さんはみるみる真っ赤になり、
「もう! その言い方、やめてくださいっていつも言ってるのに!」
と会長さんを睨みつけたあと、私の目線までしゃがみこんで優しく微笑んだ。
「一人で来たの?」
私は首を横に振りながら、
「従姉妹のお姉ちゃんに連れて来てもらったの」
と答える。
「そっか。ここで立ち話もなんだし、中に入りましょう?」
そう言って私を控え室の中へと促した。
***
中では、ちょうどステージを終えたばかりらしい男性が、
上半身裸のまま、首にタオルを掛けて立っていた。
どの人が誰なのか全く分からず、大人びた彼らに少し怯えていると――
「ん? 誰だ、その子」
低く落ち着いた声の男性が、ゆっくりとこちらに近付いて来た。
柔らかい雰囲気に似合う優しい顔立ちで、これまたカッコいいお兄さんだ。
その人は私の目線までしゃがみ、ふわっと微笑んだ。
幼いながらに、その笑顔の破壊力にくらっとしていると、
「お兄ちゃん達のファンだって」
と眼鏡のお姉さんが説明した。
イケメンのお兄さんは一瞬驚いた顔をしたが、部屋の奥へ向けて大声で呼んだ。
「カケル! お前のファンだってさ。相手してやれ!」
すると奥から、まだあどけなさの残る“少年”と呼んだ方がしっくり来るような可愛らしいお兄さんが現れた。
「ファンって……俺だけのじゃないですよ」
不満そうに唇を尖らせて呟いたその声は――
まさに、さっきステージから聞こえてきた“あの声”だった。
「あ……」
思わず見上げたまま固まってしまう。
私の反応を見た別のメンバーが、肩を竦めながら苦笑した。
「ほら、お前のファンだろ?
俺らのファンなんて、見た目で選ぶ子ばっかりだからさ」
その言葉を聞いた瞬間、私は思わず口を開いていた。
「違います! 確かに……歌声には惹かれました。でも、皆さんの演奏はうるさくなかったです。
あの……好きな音でした」
今思えば、もっと上手に言えたよね?とは思う。
でも、あの時の私には、これが精一杯だった。




