クリスマス前夜の地獄絵図と、終わらない品出し戦争
玩具売り場の商品で、箱が破損したもの。
そして、他の売り場から“迷子”になって流れ着いた商品。
それらを“迷子商品用のかご”に仕分けしながら回収していく。
売台の下を箒で掃くと──
無惨に潰れた万引き商品の残骸 が転がっていることもある。
「はぁ……」
何度目か分からないため息をつきつつ、ようやく売り場の整理が終わった頃。
――店内放送が響いた。
『3F玩具売り場、3F玩具売り場。商品上げました。お願いします』
森野さんの声だ。
「行くよ!」
私と杉野チーフは顔を見合わせ、急いでエレベーター前へ走った。
“ウィーン” と開いたドアの向こう──
満員電車のようにパンパンに詰められた段ボール が、どどどっと手前へ崩れてきた。
「うわっ!」
身をのけぞったその瞬間。
ドドドッ、と階段を駆け上がる足音。
森野さんが視界に飛び込んできて、崩れ落ちる段ボールを片手でキャッチした。
「柊! 商品、絶対に落とすな!!」
ギロッと睨まれ、心臓がビクッと跳ねる。
「す、すみません!」
謝る間もなく、森野さんは次々と段ボールを持ち上げ、また階段を駆け下りていく。
――速い。
――いや、本当に速すぎる。
その姿は、まるで戦場を駆ける“運び屋”のようだった。
私と杉野チーフは、限界まで積み上がった商品を必死に売り場へ運んでいく。
すると、他売り場の社員たちも次々と応援に来てくれて、
「じゃあ俺たちが荷下ろしやるから、杉ちゃんたちはどんどん品出しして!」
2Fチャイルド担当・山岸チーフが的確に指示を飛ばす。
「了解! 行くよ柊さん!」
「はいっ!」
段ボールを開ける。
商品を出す。
開封部分にテープを貼る。
貼ったら売り場へ走って陳列。
戻ったらまた段ボールを開けて、貼って、陳列。
これをひたすら繰り返す。
すると──
「3F玩具売り場、荷物上がります」
森野さんの声が再びアナウンスで流れ、
直後に階段を駆け上がる足音が聞こえる。
(ほんとに……何往復してるんだろう……)
息つく暇もない。
そして数分後、
「3F玩具売り場、最後の商品上げます」
その一言に、応援部隊は一斉にほっと息を吐いた。
やがて森野さん自身も階段を駆け上がって戻り、何事もなかったように品出し作業へ合流する。
普段会わない人たちも加わり、売り場は一体感に満ちていた。
“ビリッ”とテープを引き剥がす音。
“カタン、カタン”と商品を並べる音。
小さな会話と気配があちこちから聞こえる。
私はツリー用の小物飾りをフックにかけ続ける作業をしていた。
離れた特設ツリー会場で、一人黙々と手を動かす。
やがて、
「じゃあ先に帰りますね〜」
応援に来てくれた社員たちが次々と挨拶し、帰っていく。
私は空になった段ボールを潰し、次の箱を開け、また商品を並べる。
ひたすら、黙々と。
その時──
「柊さん、そろそろ終わらせるよ〜!」
杉野チーフの声が飛んできた。
「は〜い!」
返事はした。
……したけれど、
手が止まらない。
動いていないと、不安になる。
この“地獄の作業”の流れから落ちこぼれてしまう気がした。
体も心も、まだずっと“戦闘モード”のままだった。




