クリスマス前夜の地獄絵図
椅子に腰を下ろした瞬間、コツンと頭に何かが乗った。
「……?」
見上げると、森野さんが無言で缶コーヒーをもう一本手に持っていた。
「お疲れ。売り出しの本番は明日からだけどな」
そう言いながら、缶コーヒーを私に手渡す。
続けて杉野チーフへは、軽く放り投げるように一本。
「本当は飲食厳禁だけど……ほら、こっち来て」
商品が置かれていないスペースへ椅子を移動し、三人で缶コーヒーを開けた。
木月さんは15時で上がるため、それ以降の三時間は私・杉野チーフ・森野さんの三人で戦い抜いたのだ。
「毎年思うけど、クリスマス時期は本当にすごいよね」
「ほんと。子どもが可愛いから、お父さんお母さんが必死になる気持ちは分かるけど……人気商品は数に限りがあるから辛いよね」
そんな“ブレイクタイム”の空気の中、私は声を出す気力もなく、ただぐったりしていた。
「なんだ、柊。こんな程度でへばってんのか? そんなんじゃ明日と明後日の“本番”の闘いに負けるぞ」
森野さんが苦笑しながら言う。
「明日は整理券が必要かもしれないわね」
「確かに……早めに並んでるお客様がいそうですね。じゃあ、売台には出さずに、ストック置き場から手渡しにします?」
「開店時間と同時に整理券を配って、お一人様一つにしましょう」
「クレームになりませんか?」
「ん〜……でも、せっかく来てくれたお客様に、一つでも多く届けたいじゃない?」
二人の会話を聞きながら、私は口を開けたまま固まっていた。
今日でさえあの大混乱だったのに、
「明日はもっと凄い」ってどういうこと……?
現実感がなくなって呆然としていると、森野さんが腕時計を見て言った。
「あ、こんな時間か。じゃあ、俺、倉庫から明日の分の商品取ってきます」
そう言って椅子を片付け、階段を駆け下りていった。
「さて! 私たちもそろそろ売り場の整理しましょうかね」
杉野チーフが膝を叩いて立ち上がり、売り場へと向かう。
私もよろよろと立ち上がり、売り場へ向かうと――
「……え?」
そこに広がっていたのは、言葉を失うほどの凄惨な光景だった。
お客様が帰り、静まり返った売り場に残されていたのは“戦場の残骸”。
◆ おままごと用のサンプルに混ざって、
ビニールの開封テープを無理やり剥がされ、
箱がビリビリに破れたガラガラのおもちゃ。
◆ 二階チャイルドの靴売り場の靴が、
袋から出されたままポンと置かれている。
◆ 一階レジ横のお菓子が、
なぜか玩具の陳列棚の中に突っ込まれている。
見るも無残な“迷子商品”たちが、ところどころに散乱していた。




