青空と歌声と、突然の訪問
「し……死ぬ……」
昼休み。
私は休憩室のテーブルに突っ伏し、魂の抜け殻と化していた。
クリスマスまで、あと一か月。
……とはいえ、親御さんたちの“プレゼント本気度”はすでに最高潮だ。
開店と同時に階段を駆け上がる、ドドドドドッという地響き。
売り場では戦隊ヒーローの人気商品をめぐり、まさに仁義なき奪い合い。
アニメキャラのグッズ売り場では奪い合いの勢いで売台がひっくり返り、
裏では販売員総出で必死に支えるという阿鼻叫喚。
開店からわずか数十分で人気商品はほぼ完売。
怒涛の午前を終え、お昼休憩に滑り込んだ私は、椅子に沈み込むしかなかった。
「玩具売り場、すごかったね〜」
新生児売り場の菊池さんが、笑いながら隣に腰を下ろす。
「お客さんの駆け上がる足音、こっちまで聞こえてきたよ」
くすくす笑いながら、手で即席マイクを作って私に向けてくる。
「どうですか? 初めての“クリスマス玩具売り場の洗礼”を受けた気分は?」
「……驚きました。凄いです〜……」
完全に抜け殻みたいな声で返すと、菊池さんは苦笑して言った。
「でもね、本当の闘いは――これからだよ〜」
意味深すぎる笑みに、私の食欲は完全に消えた。
軽く昼食を済ませたあと、私は空気を吸いに倉庫の屋上へ向かった。
***
倉庫は店舗から徒歩五分ほど。
裏手の鉄階段を上がれば、屋上に出られる。
冬の屋上は誰も来ない。
見晴らしはよく、空気は澄んでいて――ひとりになるには最高の場所だった。
誰の姿もないことを確認し、屋上の真ん中でどさっと寝転ぶ。
大の字になり、視界いっぱいに広がる青空を見上げた。
どこまでも続く透明な青を、白い雲がゆっくり横切っていく。
イヤホンを耳に差し込み、スマホから Blue moon の曲を再生する。
あの日のままの、楽器の伴奏の上に、幼いカケルさんの歌声だけが乗った未完成のデモ音源。
青空に真っ直ぐ溶けていくその声は、昔より綺麗に聞こえた。
そして──唯一の恋愛ソングが流れ始める。
収録された五曲のうち、四曲は明るい応援ソング。
だけど、この一曲だけは、幼い彼が“誰かを想う痛み”を歌っていた。
小さく口ずさみながら、流れていく雲へ手を伸ばす。
その瞬間──
「……は?」
視界に影が差し、誰かの顔が真上から覗き込んでいた。
びくっとして焦点を合わせると──
森野さんだった。
「っ……!」
慌てて飛び起きる私。
「すげぇ格好で寝てるな、お前」
その一言のあと、森野さんは──
お腹を抱えて、盛大に笑い出した。




