ひまわりの抱擁(ハグ)
不思議そうな顔をして振り向いた店長の奥さんに、私は思わず声を張っていた。
「ありがとうございます!」
深々と頭を下げる。
「こんな素敵なディスプレイを見せていただいて……本当に勉強になりました。それから……まだ自信は持てないかもしれませんけど、これからも頑張ります!」
言葉がうまくまとまらない。
それでも、胸の奥であふれる感謝だけは伝えたかった。
店長の奥さんは、ふっと優しく目を細めると――
「あ〜、残念。こんな可愛い新人さん、私が育てたかったなぁ」
そう言って、私をぎゅっと抱きしめた。
突然の温もりに、胸の奥がじんわり熱くなる。
子供の頃以来、誰かに抱きしめられるなんてなかったから……
堪えていた涙が、危うくこぼれそうになる。
「色々あると思うけど……大丈夫。あなたは絶対、素敵な販売員になれるわ」
その穏やかな声に、気持ちを支えてもらったようで――
「……はい」
私は笑顔で答えた。
奥さんは満足そうに頷き、ひらひらと手を振りながら、ゆっくりと階段を降りていく。
その背中を見送っていると、後ろから店長が慌てて駆け寄り、奥さんを支えながら一緒に帰っていった。
「素敵な人でしょう?」
隣で杉野チーフがぽつりと呟く。
「はい」
自然と声が出た。
すると、チーフは少し照れくさそうに笑った。
「私の目標なの。園田さんはね、いつも大きな心で私たちを包んでくれた人なのよ。
……だからね、私は柊さんを“甘やかしてる”んじゃないの。
柊さんは、このお店にとって絶対に大切な人になるって……ずっと思ってるの」
優しく微笑むチーフの横顔に、胸が熱くなった。
(……このお店で働けて、本当に良かった)
心からそう思えた。
――ただ、この時の私はまだ知らなかった。
この後、私を待ち受ける“本当の戦い”の幕が上がろうとしていることを。




