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クリスマス売り場の魔法

翌日。

お店に着いた私は、思わず足を止めた。


――売り場が、昨夜とはまるで別世界のように整っていたのだ。


早朝に出勤したはずなのに、どう見てもすべての準備が終わっている。


「店長、やる時はやるからね〜」


背後から杉野チーフがぽつりと呟いた。


「え? これ……全部店長一人で?」


驚いて尋ねると――


「いくら俺が天才や言うても、一人じゃ無理やねん」


関西なまりの軽い声とともに、店長が姿を現した。


「おはようございます!」


「おはよう〜」


店長はニコニコしながら売り場を見回し、満足そうにうなずく。


すると杉野チーフが、わざと匂わせるような口調で言った。


「……ということは、このディスプレイは?」


店長はにやりと胸を張る。


「俺には、強力な助っ人がおんねん」


「え? 誰ですか?」


私が首を傾げる横で――


「やっぱり……。まさか身重の奥様に手伝わせたんですか?」


杉野チーフが呆れたように言った。


「ちゃうわ! あいつは口出しただけやで。動いたんは俺と山岸チーフや!」


店長が慌てて反論する。


しかし杉野チーフは、じと目のまま続けた。


「あのツリーの並べ方、飾りの統一感、このスペースの使い方……

絶対に奥様でしょう?」


店長は「参った」と言わんばかりに頭をかく。


「ちぇっ。これやから杉ちゃんは苦手やねん」


ぽかんとしている私に、杉野チーフが説明してくれた。


「柊さん、知らなかったでしょ?

店長の奥様、元はこのお店の契約社員さんなの。

ディスプレイのセンスが抜群でね……今でも店長が困ったら頼りにしてるんだよ」


「そうなんですか……」


思わず売り場を見回す。


昨日、私たちが飾りつけた売り場とは明らかに違う。

空気が柔らかくて、温かくて、吸い寄せられるような魅力があった。


どこがどう違うのか説明できないけれど……

“お客様が立ち止まる空気”になっているのが分かる。


そんなことを考えていると、隣でクリスマス売り場を見つめる杉野チーフが言った。


「温かみがあってさ……思わず立ち寄りたくなるディスプレイになってると思わない?」


言われて改めて見れば、本当にそうだった。

ほんの少し向きを変えただけで、雰囲気がまるで違う。


「店長の奥様……お会いしてみたかったです」


思わず漏らすと――


「え? まだ事務所におるで〜。さっきまでこっちに来てたから、すれ違いになったんやろな」


店長が満面の笑顔で答える。

つられて私もふっと笑った。


店長がベタ惚れして射止めた奥様――。

気にならない方が無理だった。


その瞬間だった。


ドドドッ……!

勢いよく階段を駆け上がる足音が響いた。


店長と杉野チーフは「来た来た」とでも言うように顔を見合わせる。


「……ああ! 俺たちが帰った後、やっぱり園田さんがディスプレイしたんですね!?

ちくしょう! 帰るんじゃなかった!!!」


売り場に飛び込むなり、森野さんが叫んだ。


その様子は、まるでクリスマスの朝を逃した子供のよう。


「森野君はね、店長の奥様のディスプレイが大好きなの。

売り場が一緒になれなかったから、クリスマスの時期だけ来てくれると、いつも質問しまくってたのよ」


杉野チーフがくすくす笑いながら暴露する。


「余計なこと言わなくていいですから!」


森野さんは顔をそらして不機嫌そうに言うが――


次の瞬間には、キラキラした目で売り場全体を見つめていた。


その横顔は、昨日まで私に怒鳴ってばかりいた人とは違い、

“本当に好きなものを前にしたときの顔”だった。


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