鉄仮面の先輩、仕事モードは完璧です
それを見ていると、私はなぜかイライラした気持ちになる。
もちろん、それを表に出すわけにもいかず、毎回ぐっと飲み込んでいた。
森野さんが爽やかスマイルで接客しているのを見たくなくて、
足りない商品を補充しようとストック置き場へ戻ると――
売り場に出せる在庫がすでに切れていた。
私はダンボールを開けて新しい商品を取り出し始めた。
そこへ、さっきまで天使スマイルで接客していた森野さんが戻ってくる。
ストック置き場をぐるりと見回すと、杉野チーフを見つけ、すぐに声をかけた。
「杉野チーフ、今度のセールの仕入れの件なんですけど……」
森野さんは、売れ筋になりそうな商品や、逆に伸びないかもしれない商品について、
自分の分析を次々と話し始める。
――仕事に対して、本当に真面目なんだ。
契約社員とは思えないほどの熱量で、
売り場全体の動きをちゃんと見ている。
だからこそ、
さっきお客さん相手にモヤモヤしていた自分が、なんだか情けなくなる。
話しかけられた杉野チーフも、
森野さんの意見をかなり重要視しているのが分かる。
不良品が届けば中を開けて壊れやすい部分まで確認するし、
特撮やアニメの玩具が発売されるときには、
テレビの録画をわざわざ見て発売日をチェックするほどの徹底ぶりだ。
玩具メーカーは量販店に発売日を事前に教えてくれないことが多い。
だから、テレビ情報がいちばん早いのだという。
そんなふうに日々の積み重ねをしているから、
うちの売り場で商品知識が一番あるのは、間違いなく森野さんだ。
ちなみに杉野チーフいわく――
「赤ちゃん用品とはいえ、お客様の大半は女性だからね。
女性店員とイケメンがいたら、そりゃあイケメンに声がかかるのよ」
どうやら、
森野さんの商品知識が爆速で増えていった理由のひとつは、
彼から話を聞きたくて声をかけてくるママさん達の存在らしい。




