第9話 コーヒーサンプルとパイナップル
店に着いた。
シャッター半分上げてドアを開け、電気をつけて中に入る。
するとシャッターの郵便受けの穴の下に箱が落ちている。
ポストに投函型の郵便である。
差出人を見ると○○会社とある。
取引先の1つだ。
品名を見るとコーヒーと…
「あき兄何それ?」
と聞いてきて箱を見る。
「コーヒーじゃない。どうしたの?」
「実はお客様からコーヒーを置いて欲しいって要望があって、
仕方なく置くことにしたんだ。
それで試供品というかサンプルというか、そういうものだと思う」
箱を開けてみるとその通りだった。
極少量だが粉のコーヒーがいくつか入っていた。
匂いで酔いそうである。
「あき兄飲めないけど、どうするの?」
「う~ん月夜に飲んでもらおうか?
でも月夜は、砂糖とミルクたっぷりだしなあ。
ブラックで飲んで判断してくれるとありがたいんだが」
「ブラックは無理かな」
月夜は考え込んだ。
ブラックで飲める人を知っている。
鶴ヶ島朱珠である。
しかし、シュシュに頼むとあき兄に会わせることになる。
シュシュはかわいい。
心配なのである。
しかしあき兄の力になりたいと思って困っているのである。
そして月夜は自己嫌悪になった。
なんか嫌な人だなと。
月夜は思い切って高坂に言った
「わたしブラックでコーヒー飲める人、友達にいるよ。聞いてみようか?」
「それは助かる。お願いしてもらえるかな。
その人と、月夜の2人で飲み比べて欲しい」
「わかった。月曜に学校で…いや後で聞いてみる」
「ありがとう」
「うん。任せて。それはそうと今日買ってきたもの食べない?」
「別に今食べなくても。
その友達が来てくれたらだけど、その時でいいんじゃない」
「そっかあそうだね」
と納得したようである。
月夜は届いたコーヒーと一緒に入っていた、説明書きのようなものを見始めた。
「なになに。お世話になっております。○○会社の加藤です。
先日コーヒーにご関心のようなので、
ご希望のスーパーなどで取り扱いのなく、
人気の品をいくつか見繕ってサンプルとして送らせていただきました。
尚、別に飲み方の提案としてベトナム式も試していただきたく、
ロブスタコーヒーとコンデンスミルクも同封しました。
是非ご検討のほどを。だって」
コーヒーにはアラビカ種とロブスタ種と違いがある。
厳密に言うとロブスタはカネフォラ種なのだが、
ロブスタ種というのが一般的である。
違いは大雑把にいうと高いのがアラビカでコクや苦みが強いのがロブスタ。
ロブスタは缶コーヒーやインスタントにもよく使われるが、
今回提案されたベトナム式のベトナムは、ロブスタの一大生産地であるのだ。
「あき兄、コーヒーにコンデンスミルクだって。飲もうよ」
月夜はかなり関心があるようだ。
「俺は飲まないけど、月夜は飲んでみたら」
「やったー!家から道具とか持ってくる」
と言って店を出て行ってしまった。
高坂はコーヒーと納品の紙を見て、コーヒーはモカ ゲイシャに
ブルンジ レッドブルボン・ホンジュラス マルカラ・
東ティモール エルメラ・インド モンスーン マラバール・
コロンビア ナリーニョか。
名前は聞いたことがあるのもあるけど、飲まないので味がわからない。
ゲイシャはお客から言われてたので、これは飲まなくても決まりだなと思った。
ベトナム式は本来専用のフィルターの役目をする器具を使うのだが、
流石にそれは入っていない。
写真と説明と値段が書いてあるだけだ。
この器具安いなと思いながら店に置くなら500円ぐらいかと考えたが、
まだ決定ではない。
そうこう考えてると月夜が戻ってきた。
「あき兄お待たせ」
タンブラーにお湯を入れてきて、
紙コップにドリッパーにコーヒーフィルターと、スプーンを持って来た。
「さっそく飲もう」
と言って紙コップにドリッパーを置き、
フィルターを織りながらセットしてロブスタコーヒーの粉を入れお湯を注いだ。
「コンデンスミルクは先だったのかな。後でいいのかな」
そこまで説明はされてなかったので後で入れることにしたようだ。
そしてコーヒーがドリップするとコンデンスミルクを入れて出来上がり。
「あき兄いい匂いだよ」
と言った。
そして
「友達にさっきの件聞いたら明日の夕方なら大丈夫だって」
「そうか。助かる。お礼を言っておいてくれ」
「わかった」
月夜は笑顔で言った。
そして一口、出来立てのコーヒーを飲んだ。
「甘苦!でもすごく美味しいよこれ」
お気に召したようだ。
それからコーヒーを見つめながら
「今日は楽しかったなあ」
とさっきまでのことを思い出している様子。
「山登りにボートも乗ったし、また行きたいね」
「そうだな」
「そういえばさあ、山登りの帰りのパイナップルなんだったんだろ」
「あ~あったなそういえば」
「謎だよねえ。今更ながら気になる」
帰りの民家の庭でパイナップルが逆さになって置いてあったことだ。
「たまたまテーブルに置いたら逆に置いてしまったかじゃないのか」
「でも全部だよ」
「葉っぱを下にした方が安定するとか」
「いや安定しないでしょ。あれ支えがしてあったし」
月夜は納得してないようだ。
そしてまた一口飲んで
「美味しい」
と言って
「あき兄もほんのちょっと飲んでみたら」
「いやいや無理だ」
高坂は月夜のがっかりした顔と美味しいというのに負けて
「ちょっとだけ…」
「えっ」
「飲まないとお客に味の説明ができない。倒れたらごめん」
「それはいいけど、ほんとにいいの?」
「ああ」
と言って一口飲んだ。
すると高坂の表情が変わり
「月夜。パイナップルを逆さにするのは、甘さを均等にする為だ。
パイナップルは下の方に甘みがたまり、上の部分は酸味が出てくるのだ」
「そうなんだ。だから逆さまに」
「パイナップルだけではなく、
梨やメロンも下に甘みが溜まる傾向があるぞ」
そういうと、高坂はふらついた。
月夜は高坂に駆け寄り体を支えた。
そして片手で横に置いてあった小さいラグマットを掴み床に置き、
その上に高坂を寝かせた。
「あき兄ごめん。飲ませちゃって。大丈夫かな」
「う~ん…」
そして数分後に
「頭が痛い」
と言って高坂は体を起こした。
「あき兄、ごめん、大丈夫?」
「あっああ…問題ない」
「よかった。あき兄すごいね」
「そういや味は覚えてないや」
と高坂は言い起き上がった。
「ちょっとだけ休ませてくれ。そしたら帰ろう」
「わかった」
と月夜は言い、コーヒーを薦めたことを後悔した。
しばらくして2人は店を閉めてお互いの家へと帰っていった。




