第21話 若葉月夜と 高坂亜紀良
月夜の通う学校は体育の授業がハードである。
広々としたグランドに1500人収容できる体育館。
その広さを活用しているからだ。
今日の授業は持久走。
月夜は体育が得意といわけではない。
思いっきり疲れた。
教室で汗を拭こうとハンカチを出そうとする。
「あれ?」
スクールバッグに入れておいたハンカチがない。
ジルスチュアートのピンクにリボン柄のハンカチだ。
スクールバッグの中をよく見たが、やっぱりない。
おかしい。
朝、家を出る時に入っていたのを覚えている。
もしかして途中で落としたのだろうか。
月夜はお気に入りだったので、ちょっとブルーになった。
この後の授業も心なしか身が入らない。
学校が終わったらあき兄のお店に行って、気分を変えよう。
そう考える事にした。
翌日。
昼は教室でいつものメンバーで食事をしていた。
月夜にシュシュ。
そして伊月(大山)にひより(鶴瀬)に美桜(坂戸)の5人だ。
授業の話にSNSや食べ物の話など盛り上がった。
食事の後にリップクリームを塗ろうとした。
リップがない。
ポーチに入ってるはずなのに。
昨日はハンカチが無くなり、今日はリップクリームが見つからず。
二日連続なので、ちょっと疑いだした。
盗まれたんじゃないかと。
放課後月夜は考えた。
もし盗まれたなら、いつ、どこで、誰に。
ハンカチの時は体育の授業の後に気づいた。
例えば体育の時間。
教室に入りさえすれば誰でも盗めただろう。
リップクリームは昼食の後に気づいた。
昼食前に音楽の授業があった。
またもや教室に入れれば誰でも盗める。
もちろん見つかるリスクはあるし、他の時間の可能性もある。
しかし誰でも可能だ。
いったい誰が。
いつ、どこで、誰に。
可能性が高いのは、一日目は体育の時間。
二日目は音楽の時間だろう
普通の授業中では絶対に無理だ。
トイレなどで席を外しても、クラスのみんなの目がある。。
どこで。
教室だろう。
通学中とは思えない。
誰が。
これは全くわからない。
クラス内の誰かがという、可能性はあるが、
教室が空になるんだから、他クラスの人でも可能だからだ。
願わくばこれ以上盗られませんようにと思うしかなかった。
三日目、今日は自転車がパンクしたので、バスで通学した。
そしていつも通り授業を受け、みんなと昼ご飯を食べ、
その後に午後の授業が始まった。
今日は無くなったものがなかった。
それとも気づいてないのだろうか。
授業が終わる頃に雨が降り出した。
自転車で来なくてツイてたと思ったけど、よく考えたら傘がない。
朝の天気予報では降るとはいってなかったから、持ってきていない。
困っているとシュシュがやってきて
「月夜どうしたの?」
「傘持ってくるのわすれた」
「私折り畳み傘2つあるから1つ貸すよ」
「いいの?」
「もちろん」
「シュシュありがとう」
「どういたしまして」
シュシュはピンクの傘を貸してくれた。
持つべきものは頼りになる友達。
月夜はありがたく傘をさしてバス停へと向かった。
四日目
自転車は昨日パンクを直したので、今日は自転車通学。
晴れているので雨は降っていない。
昨日シュシュに借りた傘は夜のうちに乾かして、
スクールバッグの中に入れて持って来た。
今日も体育の授業があった。
月夜は授業が終わると真っ先に、スクールバッグの中をチェックした。
シュシュに借りた傘がない。
昼食の時にでも返そうと思っていたのだ。
やられた。
しかもわたしのではない。
シュシュのだ。
申し訳ない気持ちになる。
放課後、教室にいつもの5人で喋っていた。
その途中わたしはシュシュに言った。
「昨日借りた傘が無くなった」
と。
そしてひたすら謝った。
シュシュは驚いていた。
だけど傘なんて、
よく誰かに盗まれる代表みたいなもんだからと言ってくれた。
流石に怒りを感じる。
これで3つ目だ。
それから五日目の金曜は何も無くならなかった。
これで今週の学校は終わり。
土曜は自主参加だが、基本月夜は出ない。
明日はあき兄と何処かへ行こうかな。
嫌な気分で終末を迎えたくない。
翌週、月・火・水と何事もなく過ぎていった。
先週たまたまわたしが狙われたのだろうか。
今週は別の人が狙われてるんだろうか。
でも学校で盗難騒ぎの話は知らない。
そして木曜日の体育の授業の後に信じられない事が起こった。
スクールバッグの中にシュシュから借りた傘が入っている。
どういうことだろう。
月夜は困惑した。
そして月夜はシュシュにお願いをした。
学校が終わったら2人で誰もいない所で会いたいと。
放課後シュシュと月夜は、シュシュの家へと向かった。
シュシュは
「また料理?」
と言うがわたしが真剣な顔をしてるので、黙って家まで行ってくれた。
シュシュの部屋に入るとまず傘を返す。
「どうしたの、これ」
とシュシュが言う。
月夜はこれまでのことを打ち明けた。
先週の月曜日にハンカチが無くなったこと。
そして火曜日にリップクリームが無くなったこと。
そして木曜日にこの傘が無くなったこと。
シュシュは驚いた。
そして月夜は
「この傘が戻ってきたのはわたしのじゃないからだと思うの。
これがシュシュのだと話した時にいたのは、私とシュシュ。
そして、伊月・ひより・美桜の5人。」
そして
「ハンカチとリップと傘が無くなったのは体育と音楽の時間だと思うの。
他クラスの可能性もあるけど、
まさか授業中3回も抜け出してくるとは考えにくい。
クラスの人なら遅れて出たり、早く戻ってきたりでチャンスが高い」
「つまり…」
シュシュは悟った
「犯人は伊月・ひより・美桜の3人のうち誰か」
と。
「うん。わたしは友達を疑いたくないけど、状況的には3人の誰かが…」
「どうやって見つけるの?」
「みんなに聞くしかないかな…違う人は嫌に思うだろうね。疑われて」
「仕方ないんじゃないか」
「でももう1度信じてみる。シュシュに話したら、なんかスッキリした」
「そっかあ」
「だから当分このままで」
「わかった。月夜がそうするなら」
翌金曜日、午前中は何事もなくすぎた。
昼食はいつもの5人で。
月夜とシュシュはいつも通りふるまった。
話題はファッションになった。
ひより(鶴瀬)が月夜に聞いてきた。
「月夜。最近オシャレな買い物をした?」
「月夜は買い物じゃないけど、
親戚の人からシルバーのリングをもらった」
と言って、ポーチから取り出してひよりに見せた。
「これいいじゃん。いいなあ月夜」
「えへへ。わたしも気に入ってるの」
ひよりは月夜にリングを返し、今度は美桜(坂戸)に同じ事を聞いている。
そうこうしてるとお昼は終わり、5時限は美術なので教室を移動した。
月夜は美術の粘土作りが早く終わったので、授業が終わると、まっさきに戻ってきた。
そしてスクールバッグを確認。
するとポーチの中にあったリングが無くなっている。
月夜は確信した。
やはり3人の誰かだ。
教室を移動するので警戒をしていた。
美術室にひよりと美桜はそれぞれ遅れてやってきた。
伊月は途中トイレで抜け出した。
3人に可能性がある。
放課後3人にお願いして、教室に残ってもらった。
そして今まであった事と、リングが無くなったことを話した。
3人は驚いた。
そしたら、ひよりが
「私たちを疑っているなら検査して欲しい」
と言う。
ひよりは美桜と伊月を見て
「いいよな」
と言う。
2人も了承した。
悪いとは思いながらも、シュシュと2人で3人を検査した。
結局なにも出ず。
月夜は3人に謝った。
ひよりは
「仕方ないよ。そんだけ無くなってるんだし、
状況的には私たち3人が怪しいと私も思うもん」
「そういってくれると助かる」
それからお願いして5人で考えることになった。
いつ、どこで、誰が。
結論は出なかった。
その後月夜は、高坂の店へと向かった。
すると高坂が聞いてきた。
「月夜。最近なにかあっただろう。
先週から少し様子がおかしいと思っていたんだ」
月夜は高坂に盗難騒動の話を一切してこなかった。
高坂に心配をかけたくなかったからだ。
しかし…高坂に打ち明けることにした。
高坂は黙って月夜の話を聞いていた。
聞き終わると店のシャッターを閉め、
店内にあった缶コーヒを一気飲みした。
「月夜。5時限は美術で粘土を作ったと言ったな。
犯人は粘土の中にリングを隠したんだ」
高坂は倒れた。
そして絞り出すような声で
「時間がない。今から学校へ戻って調べてこい」
月夜が高坂を寝かせようとすると
「俺のことはいい。早く行け」
月夜は言われた通り急いで学校へ戻った。
そして先生に美術室に忘れ物をしたと言って鍵をもらい教室に入った。
ひより・美桜・伊月の粘土を調べると、
伊月の粘土の下に物を押し込んだ後が。
掘り返してみると月夜のリングが。
犯人は伊月だった。
その後月夜は高坂の店に戻り
美術室で発見したことを話した。
「あき兄ありがとう」
「それより月夜。これからどうするんだ?」
「伊月に連絡する。明日会いたいって」
「そっか」
「それからはわからない。とりあえず理由を聞かなきゃ」
月夜は伊月に明日会いたいと伝えた。
伊月は了承した。
月夜が場所を決めようとすると、
伊月が高坂のお店でと言ってきた。
以前伊月はわたしとあき兄が店から出てくるのを見て、
知っているのだ。
翌土曜の11時に、伊月が店に来ることになった。
そして高坂にも同席して欲しいと伊月は言ってきた。
高坂はなんで俺も?と思いながらも同席することにした。
翌日2人は11時前に店に着いて伊月を待った。
伊月は時間通りにやってきた。
月夜がシャッターを持ち上げ伊月を中に入れる。
そして椅子に座ってもらってから、昨日放課後美術室に戻った事を話した。
そして伊月の粘土からリングが出てきたことも。
伊月は月夜に謝った。
月夜は理由を聞いた。
すると
「私ずっと若葉(月夜)さんのことが好きだったの。
だから若葉さんの物がどうしても欲しくなって」
月夜は思いもしない告白に驚いた。
横にいた高坂も驚いた。
「でも若葉さんには好きな人がいるって知ってたから…」
月夜は色々と動揺した。
とりあえず、色々否定しないと。
高坂も動揺した。
「大山(伊月)さん。わたしのことを好きになってくれてありがとう。
でもごめんなさい。あなたの気持ちには答えられない。
そして考えはわかりはするが、やはり人の物を黙って盗るのはよくないよ」
「どうしても…どうしても気持ちが抑えられなくて。本当にごめんなさい」
「わたしは…今回の事は全て忘れるよ。この話はこれで終わり。
またいつものような関係でいようよ」
「若葉さん…」
「ごめんね。わたしは好きな人は異性がいいし、
ハンカチとリップはあげるよ。だから…」
伊月は頭を下げ無言で店を出て行った。
そして学校に来なくなった。
しばらくして高坂のお店にはシュシュがきた。
わたしが誘ったのだ。
そしてわたしは高坂とシュシュに聞いた
「わたしはどうすればよかったと思う?」
3人は考えた。
結論は出なかった。
「わたし今度、伊月の家に行ってみる。
好きになってくれたことは嬉しいし、もう1度伊月と仲良くなりたい」
「そっかあ」
とシュシュは言った。
高坂も
「それがいい。時間がたてばなにか変わってるかもしれないし」
その夜、シュシュが帰った後、高坂に言った。
「この前はありがとう。わたしの為にコーヒーを飲んでくれて」
「別に大したことじゃない。月夜が困っているなら俺は…」
2人はしばらく黙ってしまった。
少しして
「そうだあき兄、コーヒーと言えば前から聞きたいことあったんだ」
「なんだ?」
「コーヒーのブラックって真っ黒じゃん。
そこに白いミルク入れるとなんで灰色にならないの?」
月夜は店にある缶コーヒーを見つめた。
その目線に気づいた高坂だが…
「月夜。コーヒーは黒ではなく茶色だぞ。豆とかみればわかるよ」
月夜はちょっとがっかりして
「チェッ。あき兄のかっこいいとこ、また見たかったのに」
(完)
これにて高坂亜紀良と若葉月夜の物語はおわりです。
最後までお読みいただきありがとうございました。
私自身最初に書いた小説で感謝の気持ちでいっぱいです。
今後の参考の為に評価していただけると幸いです。
本当にありがとうございました。




