第11話 とろびんちょう
月夜が試験期間に入った。
そういうわけでお店には来ない。
そんなある日の閉店後、
高坂は商店街から少し外れたところにある回転寿司屋へと向かった。
ここは大手チェーン店ではない。
なのでタッチパネルや電車に乗って寿司が運ばれてくる事も無い。
回転寿司なのでレーンがあるが、寿司は回っているのがほんの少しである。
実際は店員に声をかけて注文するのだ。
高坂は店の前に来ると緊張をした。
そして覚悟が決まると店内へと入っていったのである。
「いらっしゃ~い。お好きな席へどうぞ」
店員が元気よく声をかけてきた。
高坂は奥の席に座り、メニューをみる。
そして…
「とろびんちょうを」
「はい」
と店員が言い暫くしてとろびんちょうを乗せた皿を渡された。
美味い。
マグロの大トロはもちろん中トロにも劣りはするが、
そんなに差があるわけではない。
それなのに値段は格安だ。
食べ終わるとまた
「とろびんちょう」
「はい。お客さんとろびんちょう美味しいですよね」
と店員が言い、暫くしてまた皿を渡してもらい、とろびんちょうを食べた。
そして…再度
「とろびんちょうを」
店員は返事をしなかった。
しかしちゃんと裏方さんに伝えとろびんちょうの皿を渡される。
食べようとすると店全体に聞こえるように大きな声で
「今日は銀鮭がお勧めです。美味しいですよ」
高坂は思った。
始まったと。
ピンポイントで同じ物ばかり注文して食べる高坂に対して、
店員は別のも食えと。
プレッシャーを感じる。
とろびんちょうを食べ終わると、少し時間をおいた。
そして
「とろびんちょう」
店員はまたもや無言。
その後またお店全体に聞こえるように
「銀鮭、脂が乗っていて美味しいですよ。
今日はこれ食べていって下さいね」
そして無言でとろびんちょうの乗った皿を渡された。
すごいプレッシャーだ。
とろびんちょうを食べ終わると、高坂はプレッシャーと戦った。
そして
「とろびんちょうとぎ…銀鮭を…」
負けた。
店員の口角があがった。
「とろびんちょうと銀鮭ありがとうございます」
高坂は自分の弱さを恨んだ。
そしてお会計へと向かった。
次回こそは勝利してみせると心に誓って。




