3 才能とコネとあと何か・・・
「こんちわ~友達連れてきたよ」~カイ君の声が玄関から響く
「初めまして 大崎です」「こいつは同級生で今農協で働いてる。こっちは実家が旅館だけど今は休業中」
やや大柄な細身の青年が挨拶した「農協で働いている大崎です」
「旅館の植野です」こちらはちょっと小太り
「はじめまして、どうぞテーブルについて、今日はパエリアにしてみたの、ああ、カイ君、唐揚げもあるから安心して」
「わ~おいしそう」
「何で乾杯しよか?車だれが運転してきたの?」
「オレだけど、こいつらも酒強くないから、麦茶でいいよ」
「こどもか!・・・でも考えたらアンタら、もう孫の年なんだよね」
「そうなんですか?」農協の青年が言った
「そうよ、私はアンタらの3倍は生きてんだから」
「すご~い」旅館の息子が驚く
ふたりとも田舎の朴訥な青年というイメージだった。
農協の青年は実家は農業でみかん畑も山の上だとかで下でアパート暮らし
旅館の青年は開店休業の現状の悩みなどが話題になった。
食事が終わりお茶とケーキがテーブルに並べられた
「さてと、この二人にはあの計画話してあるの?」
「いや・・・まだ・・・・」と口ごもるカイ君
「何?あの計画って?」と他の二人がいぶかしがる
「まあ、重大発表だから、自分の口から話す?」と藍子が促す
「重大発表って、オレまだのっかったわけじゃないし、何も決めてないし・・・・」
「いいのよ、別に、決心しようがしまいがもう将来はそっちに向かってるんだから」
「そんな、勝手に・・・」
「何なんの、結婚でもするの?」と旅館の青年
「違う違う、この人が勝手に俺を町議会議員に立候補させようとしてるんだよ」
「え~りっこうほ~なんで?いつ?ってつっこみどころ満載なんだけど」
「だから、まだ何も決まってないんだってば」
「カイ君、一度口にしたら、それは言霊っていってね、もう取り返しがつかないんだからね」
「そんな~」
「どういうことなんですか? 藍子さん・・でしたっけ?」農協青年が聞く
「まあまあ、カイ君の将来をデザインしたら、そうなっただけよ」
「そうなったって?」旅館息子が聞く
「君たちはまだ20代半ばで、これからいくら失敗してもやり直せるし、人生一度きりなんだし、とにかく目の前には可能性しかないじゃない?だからもったいないなと思って、ここは一つ大きな目標としてこの町をよくするために議員になったらいいんじゃないかと思ったわけ、で、ゆくゆくはテッペンとるの」
「で、3年後に立候補しろって言うんだよ、この人、むちゃだよね」
「ほら、すぐそこに話を持って行こうとするから、そう思うんだよ」と藍子
「どういうこと?」
「あした立候補しろとか言ってんじゃないの、そのためのロードマップがあるのよ。
最初は身近なところから少しずつノウハウを積んでいくの」
「この間の廃校を図書館にして、町の駅みたいにして住民のバザーを常設にするってやつでしょ」とカイ君
「なにそれ、もうそんなこと決めてんの?」とふたりが驚く
「まあ、それはドリルの一例、そこでホストクラブ開くのもあり、町の駅で、ね、おもしろいでしょ?」
「だから、藍子さんぶっとびすぎ」
「でも、具体的にはどうするんですか?」と農協君が聞く
「う~ん、例えばカイ君は今何に詳しいかな?」
「葬式?」
「そうだね、そこでいろんな人見てきたよね、当事者の遺族とか・・・その人たちに共通していることってなんだろう?」
「共通していること?」
「そう、同じことで悩んでいたり、悲しんでいたりしてない?」
「これからどうしようとか、もっと一緒にいたかったとか・・・?」
「そうそう、それから?」
「う~ん、手続きがよくわからないとか」
「そうそれ!ビンゴ!」
「何?」
「カイ君は何回も葬儀を経験しているから、色々わかるけど、ほとんどの人は初めてだったり、突然だったりで戸惑うよね、それは持ってる情報量の圧倒的な違いでしょ」
「そうだけど・・・それが?」
「だから、その圧倒的な情報を分け与えるのよ、社会的弱者に。つまりここでは葬儀当事者とか予備軍に。まあほとんどの人がそうだけど」
「それで、オレは何をするの?」
「そう、おれは何ができるのかな?」とオウム返しに藍子が言う
「教えるってこと?どうやって?」
「うん、だんだんわかってきたね、同級生たちはどう思う?」
「葬儀についてカウンセラーみたいなものになるとか」農協が言った
「いいね~君、頭いいよ~」
「カウンセラーって何すんのさ」とカイ君
「ううん、それはただの肩書、やることはズバリ終活講座よ」
「終活講座?ってもうあちこちでやってますよね」と旅館くん
「そうよ、でもカイ君のはちょっと違うの」
「違うって?」
「じゃまず、カイ君の考える終活講座ってたとえばどんなことする?」
「高齢者を集めて、いざという時に必要な知識を教えるとか・・・」
「そう、それなら自分でパンフレットくらい作れるよね」
「まあ…似たようなものすでにあるし・・・」
「よし、決まり、ところで旅館の息子に聞きたいんだけど、なんで休業してるの?」
「両親が高齢で、布団の上げ下ろしとかきつくなって板さんも昔からの人で引退したから旅館として成り立たたなくなって・・・」
「でも、温泉はあるんだよね」「ええ、一つだけ使ってます」
「収入はどうしてるの?」「駐車場を貸し出しているのと、たまに素泊まりで昔からのつながりで研修団体とか・・」
頭を両手の3本指で抱えてうつむいて話を聞いていた藍子が
「よし、つながった」と声をあげた
「こういうのはどう?」藍子のプレゼンがはじまった
「お年寄りを集めて終活講座を開く、でもパンフだけでは退屈なので、色々アイディアを乗っける。
で、終活だけでなく、日ごろの生活の提案もする。まず明日からできる身の回りの整理整頓の提案からはじめる、それには、クリアファイルがモノを言う・・・」
そういいながら自分が今使っているファイルを持ってきてぱらぱらとめくった
「これは私が使っている生活ファイルなんだけど・・」
「こうして年金や光熱費、医療費などの項目別に請求書や領収書お知らせなどを分類するの。毎日いろんな書類がくるでしょ。高齢者ってこういう分類とか整理整頓とかあんまり得意じゃないから、まずこうやって「情報の見える化」を提案するの。これはどちらかというと終活ファイルへの序章って感じ」、
そういうともう一冊のクリアファイルを取り出した。
「こっちのファイルは3年前の親の葬式で作ったんだけど、今回主人の葬儀関係のファイルも同じように作ったの」
と一ページ一ページめくった
最初は、死亡診断書、葬儀の契約書、見積書・・・とか葬儀の香典返し、名簿、…戒名から四十九日までの色々な項目があるでしょ。
で、こういうファイルを「カイ君オリジナル」として作るの。カイ君グッズ第1号よね。」
「で、旅館の跡取り君、ここで君の出番。力を借りたい」
「えっ、力って・・・?」と突然振られてびっくりする旅館のせがれ君。
「この終活講座の場所を君の旅館の一室にして部屋を借りたいの」
「コミセンとかあるけど・・・?」カイ君が言う
「ううん、旅館だらこそ付加価値とより多くのサービスが提供できるのよ」
「ふかかち~?」
「この終活講座は温泉入浴付きにするのよ」
「どうして?」
「人と同じことをしてもだめなの、差別化っていってね、何かユニークな付加価値をつけないと注目してもらえないのよ、コミセンじゃ退屈でしょ」
「それが温泉?」旅館のせがれが言った
「ううん、それだけじゃないのよ・・・・、みんな他にどんなアイディアがあるか考えてみて」
「何かお茶とかお菓子とかデザートとか・・」
「いいねそれ、そんな感じでもっと」
「お弁当付きとか・・・」「更衣室のマッサージ器無料開放とか・・」
「そうそう。よし、全部採用!」
目の前のケーキを食べ終え、違うお菓子を出しながら、藍子が続ける
「たとえば、終活講座をしてから、お弁当でもいいんだけど、たとえばここは栄養士の人を呼んで簡単な「元気食の作り方講座」みたいなものにして、実際そこで作ってもらって試食してもらう、ポータブルコンロがあればできるでしょ。ほら旅館で使ってるあれ、卓上の七輪みたいなのあるじゃない?」
「卓上七輪ですか」「何だそのままの名前なのね」
そして終わりは簡単なストレッチと温泉に入って、リフレッシュして帰ってもらう。おみやげはカイ君オリジナルファイル。どう勉強にもなるし元気になって帰ってもらう、どう?このシニア終活講座?」
「なるほど、付加価値ってそういうこと」せがれが言った
「座学だけでなく、他に楽しいことを取り入れるってこと?」農協が言った
「そうね、カイ君できるかな?」カイ君が不安そうに「オレがやるんすよね」
「面白そうですね」他人事のように農協君が言う
「同級生たちも他に何かサポートしてくれない?」
「僕は部屋貸しと温泉と卓上七輪・・・と」
「君はパソコンできるんだよね。じゃ、ゆくゆくはパソコン教室とかスマホ教室とかもやってくれない? 結構みんな困ってるシニアがいるんだよね」
「オレも講座受け持つんですか?」
「付加価値よ、それに、旅館君、これは投資だと思って、これが話題になって継続的なイベントになったら、旅館の使い方も変わるんじゃない?」
「なるほど」
「農協君は何か提供してくれる?ジュースとかないかな?」
「ありますよ、でも農協協賛のイベントにしたらどうかな元々地元の高齢者って農協の組員も多いし」
「それ、すごくいいアイディア!農協君、君出世するかもね~、他にアイディアない?」
「農協婦人部に健康弁当とか作ってもらうとか・・」褒められた農協君が続ける
「それいいね、いい、そんな感じでアイディアどんどん考えてみてよ・・・・カイ君なんかない・・・あと写真屋と美容室の知り合いがいるとパーフェクトなんだけどな・・誰かいない?同級生で」
「そういえば、カメラやの娘がいたけど店はもう閉店するとか言ってたみたい、美容室は先輩の誰かいたような気がするけど・・・」
「コンタクトできる?」
「何すんの?」カイ君が聞く
「最後の仕上げの遺影の撮影よ」
「遺影?」同級生たちが驚いた
「あのね、昔旅行に行ってどこかで体験したサービスなんだけど「変身フォト」って言ってメイクしてもらってすごくきれいになって写真を撮ってもらうの。え~と母がしてもらって、すごく喜んだの、どこかに写真がまだあるかもしれない、今度探しておくわ、・・・女性ってね、死ぬまで「きれい」に憧れつづける生き物なのよ」
「そんな派手なの遺影に向かないんじゃないの?」
「これが意外に受けるのよ、遺影でなくとも死ぬ前にそんなきれいな写真撮ってもらいたいってね、だって考えてみてよ、ちゃんとした写真って結婚式とか家族写真以降はないよね。年寄りになっておめかしして写真館で撮る人いる?
でもこうして条件が揃えばみんな撮ってほしいものなんだって、お姫様みたいな派手なドレスを一度着てみたかったって思ってる人たくさんいると思うよ。変身願望、
撮った人はその写真見せびらかしたくなるから、口コミがまたたく間に広がって忙しくなるわよ」
「ちょっと面白いかも、それってコスプレですもんね」農協青年がまとめる
「そう、そうなのよ、だからもうこの際私があるだけの頭下げるから、今度その子たち連れてきてくれない?そうするとこのプロジェクト完璧になるんだ」
「なるほど、連絡してみます」農協青年が申し出る
「で、パソコン君はその写真を一回パソコンに取り込んでリタッチしてほしいのよ、しわとかシミとか削除してね、プリントアウトする前にね」
「はあ・・・なんか僕の出番多くないですか」
「ないない、これうまくいったらこの町で初めてのビジネスになるのよ、だから今はスタートアップ企業のつもりでのっかってくれない?」
「はあ・・・」
「カイ君どう?とにかく一回やってみない?」
「藍子さんはいつも強引なんだから・・植野なんか面食らってるよ」
「だって、私に残された時間はそんなに長くはないのよ、だから急いでいるの」
「とにかく一度シュミレーションがてらにモニター数人で講座やってみましょうか?」
と使える農協青年が乗り気になる。
「ありがと、農協君、君が一番に出世して議員になるかもね」
「そうだ、僕じゃなくてこいつを立候補させればいいじゃないっすか、藍子さん」
「ううん、農協君は優秀な参謀になってカイ君を支えてくれると思うよ」
「ぼくが?・・・」戸惑う農協君
「そう、でね、旅館のせがれはパソコン技術を生かして、そうねデジタル参謀ってどうかな」
「どうかなって、何するんでしょうか?」
「そりゃ、ウェブページ作ったり、SNSでブームを作りだすの・・・」
「何で、僕の立候補は変わらないんですか?」
「あんたは表の顔として人あたりがいいんだから、知名度を上げて、人心掌握って役どころなのよ、で、農協君は頭がいいので、そういう人は前に出ないで後ろで操る方が向いているのよ」
「ぼくは?」旅館のせがれが聞く
「あなたはキーボードたたいて指先からムーブメントを起こす仕掛け人だわ・・・」
「なるほど・・」
「ね、こういうことは一人じゃ無理なの、最低3人いて、それが核となってどんどん大きくなるのよ、科学の実験で塩の結晶とか作らなかった?あれも核がないと結晶は大きくならないし、ほら3人寄れば文殊の知恵っていうでしょ」
青年たちは藍子の説得力で言いくるめられたようで、妙に納得した。
「藍子さんて面白い人ですね、若い時は何をやってたんですか?」
「私?そうね~いろいろ・・・最後は吟遊詩人のマネージャーかな」
「何、それ?」 「あはは・・・まあ、それはいずれゆっくり話すから・・・」




