10 遺言と遺産とあと何か・・・
ハンバーグをテーブルに出した
「今日はカレシさんは?」
「横浜。友達がヨットレースから帰ってくるとかで2,3日は留守」
「いつ入籍するの?」
「そうね、まだ夫の誕生日の散骨のこともあるし・・・こんなすぐ再婚したら天国から怒られちゃうかもね。それでほんとにこれでいいのかわかんなくなっちゃった」
「どうして、この間の入院の時みたいに何かあったら、そばに誰かいてほしいんじゃなかったっけ?それに昔、結婚も考えた人でしょ?」
「恋と結婚は別だからねえ~」
「結婚ってこれまでの彼の人生も背負うってことでしょ、彼の後ろにいる他の家族とか・・・・そうするとなんか自信ない」
「藍子さんらしくない、いいんじゃないそんなに深く考えなくても」
「う~ん、まあそうなんだけど・・・」
「好きなら一緒に住む、そうじゃなかったら住まない、だっていつも言ってるじゃない。いつ死ぬかわからいとかもう人生は長くないとか・・だから一緒に居たいんだったら住めばいいじゃない、結婚って形にとらわれなくても同棲のままでもいいんじゃない?」
「カイ君いつの間にか大人になったねえ」
「へへ、そうですか、30近いもう大人ですから」
「そっか・・・、食べよか」
「私カイ君の結婚式の時、生きてるかな、カイ君の子供もみたいな」
「じゃあ 紹介して下さいよ」
「そうだ、こないだの婚活イベントどうだった?」
「あまり人が来なくて・・・」
「じゃ、東京でやったら・・・」
「どうやって?」
「そうね、申込だけ東京でやって、貸し切りバスでここへ連れてくるのよ」
「そうね、自然が好きで・・・じゃ、キャンプとかいいんじゃない?グランピングでもいいし、とにかく焚火を前にしたら本音も出るかもよ。
で、ここに移住したらこんなことできますって。色々アイディア考えてプレゼンするのよ彼女たちの前で、質疑応答の質問は事前に東京でアンケートに書いてもらうの。
その時、ある程度面接して「親と同居は絶対いやとかふるいにかけるわけ、で抽選ってことにして、プロフィールを煮詰めておくことも大事かな。
東京の婚活相談所とコラボするのもありかも、観光課も巻き込んでさ予算貰うのよ」
「ふ~む、相変わらず藍子さんはアイディアの宝石箱ですね」
「あれ、何のんきなこと言ってるの、カイ君も考えるのよ、何かない?」
「僕はいつも黒に囲まれているから、黒の喪服が似合う人大会っていうのは?」
「いいじゃない?喪服大会はネーミングが失礼かもしれから、黒が似合う人コンテストかな、でもそういうなんでもいいからとにかくアイディアを出す姿勢、いいよ、成長したね~」
食後のお茶とケーキを出して藍子は食器洗いに、そこへカイ君も手伝いにきた。
「あらいいのよ、ケーキ食べてて」
「いえ、手伝います」
「成長したね~カイ君、わたしゃうれしいよ~」とすすり泣くまねをした
食器を洗い終わってテーブルに戻りお茶をいれた
「という話で、あの終活講座と同じようにやってみなきゃわからない、机上の空論じゃだめなわけよ、政治家は常に足で回ってみなきゃ。だから議員に立候補するなら一か月くらい宅配のバイトした方がいいんだよね」
「どうして?」
「だって、この町の隅々までいくわけでしょ、ここのエリアはヤバいとかここに新しくヤードができてるとか、わかるじゃない」
「なるほど、でも配達員に有料で情報を定期的に提供してもらうとか、インタビューすればいいんじゃないの?」
「すごい、カイ君成長してる!そうよ、そういうアプローチもあるのよ、選択肢を考えることが創造力だから、カイ君合格」
「カイ君もうこの町の総理大臣だね、私がカイ君に大臣になってと言ったけど、もうなったよ、あとは自由に羽ばたいて行ってよ。
私はほんとはねカイ君に本当の大臣になってもらいたいわけじゃないの。
そこに至るまでのプロセスで人生に立ち向かう力や創造力を身につけてほしかったの、だから私はもう満足よ、卒業かな、
だから議員に立候補するもよし、自分の力がどんなか試せるしね、でもほかの選択肢もあること忘れないでね、もう何でもできるしまだ何度でもやり直せるから・・・
うれしいな私、・・・・これで心置きなく天国へ‥ってその前に世界1周クルーズ行かなきゃ、カイ君ありがとう」
「なんだか急に放り出された感じもしなくはないんですけど・・・」
「そんなことないよ、やっと独り立ちができるようになったってことだよ」
「そもそも、なんで藍子さんはオレにかまってくれたの?」
「カイ君が原石にみえたから、磨いてみよっかなって」
「オレで遊んでたんすか?」
「違う、違う、もっとシリアスな話なんだよ、実はね・・・私はね本当は普通のお母さんになりたかったんだけど子供に恵まれなかったの、それはその頃の「女はこうあるべき」という価値観から外れてしまってたの」だから親に孫の子を見せてあげられなかったっていう罪悪感と自分が人生に負けたという敗北感でずっと生きてきたの。だから、カイ君を育てることがなんか私の贖罪みたいに感じたのかもしれない。
カイ君にとっては迷惑な話だったかもしれないけど、結構面白かったでしょ」
「そうですね、最初は戸惑ったけど、強制的にいろいろなところに行って色々な人を見て、感じて、オレもモノの見方がちょっと変わってきたと思ってます」
「そう、それならよかった、なんだかんだと結構受け入れてくれたしね、そういう素直な子だと思ったから、私の目に狂いはなかったってことかな」
「今は感謝ってことを感じてますよ、藍子さんありがとう」
「え~カイ君からそんな言葉がもらえるなんて、今日は幸せだわあ~」
「えへへ、何にも持ち合わせて無いですけど・・・」
「いいの、いいの、そうだ私からプレゼントがあるの」
そういうと藍子は通帳とカードを持ってきた
「カイ君ここに300万入ってるの」
「300万!」
「これをカイ君にあげるわ、好きに使って、もちろんすぐに使わなくて取っておいてもいいのよ、結婚資金してもいいし、マンションの頭金にしてもいいし、留学資金の追加でもいい・・・」
「何でオレにこんな大金を?」
「卒業プレゼント兼 私に付き合ってくれたホスト料と指名料かな」
「でも…こんな大金・・・受け取れませんよ」
「でもほしいよね」
「うん、ほしいですけど・・・」
「ふふふ・・・じゃ、もらっておきなさい、私の遺産だと思って」
「どうしよう、僕何もお返しないですよ」
「あるじゃない、さっき言ったでしょ、成長を見せてくれた、立派な大臣になったじゃない」
「でも・・・」
「じゃ、それなら、私の葬式は頼んだわよ」
「えっ」
「ああ、スッキリした。この間入院した時にカイ君にこのホスト料渡すの忘れないようにしなきゃって思い出したの、ああ。もちろんこれからもごはん食べに来てね」
「ありがとうございます、じゃ・・・遠慮なくこれは預からせていただきます」
「えっ何言ってんの」
「しばらく考えてから、どう使うか慎重に計画建てます」
「うん、成長したね、すぐ使わないところが」
「実は株の勉強もしようかと思ってるんですよね」
「ああ、それならそのお金まだ使っちゃだめよ、私と同じ証券会社で口座開いて。
そしたら、私の株を分けてあげるから、それで練習しなさい」
「えっ 藍子さん株やってるんですか?」
「ええ、少しだけどね」
「じゃ、是非是非教えてください、最近知り合った仲間が株の話してて、興味があるんすよね」
「ふふふ。第2章の始まりってわけね、今度はファイナンシャルのお勉強ね、それと海外留学」
「それ、いつごろ行ったらいいですかね?」
「まず、何を学ぶか、英語じゃないのよ」
「え、っ、どういうことですか?」
「英語は単なる入り口、その先の目標に向かって行きなさいってこと」
「と、いうと?」
「英語を使って何をやりたいのかを明確にしておくの、たとえば、外国の政治を学ぶとか、身近な葬式のやり方でもいい、結構違うからね日本とは・・」
「違うって?」
「外国では葬式の後、遺族は家に帰るの、で、葬儀屋さんが遺灰を届けてくれるから、日本のように火葬場で待つなんてことはしないのよ、あれ残酷じゃない?」
「そうなんですか?知らなかった」
「そう、知らないことを学びに行くのよ、英語だけでなくね」
「そういうことか」
「そう、なんでもそうだけど、目標をもっと遠くへ設定するとモチベーションが上がるの、まあ下がる人もいるけど・・・でも単に語学学校に行くのではなくその先に英語を使ってやりたいことを設定することが大事なの」
「なるほど、じゃ、このお金もそうなんですね?」
「えっ、どういうこと?」今度は藍子が聞き返す。
「つまり、株でお金を増やすことだけじゃなくて、その先に稼いだお金でどうするかってことでしょ」
「すごい!!その通り、大人になったね~」
「はい、だから頂いたお金倍にしてお返しできることを目標としてやりたいです」
「おお、なかなかの良き心がけ。じゃ改めてこれからもよろしくねカイ君」
「こちらこそ」 2人は握手を交わした。
一旦 了




