1 縁と運とあと何か・・・・
「ルドベキア、アガバンサス、ヘメロカリス、ゲイソリーダ、ねえ、何だと思う?
藍子は仏壇の夫の遺影に話しかける。
「みんな花の名前なんだよ~」と見ていたカタログを開いて遺影に向けて見せる。
ピンポーン 玄関のチャイムがなった
「は~い」
約束の時間に葬儀社のカイ君が来た。
仏壇に手を合わせると、横にあるキッチンテーブルに座った
「いかがですか?落ち着きましたか?」そう藍子に聞くと、出されたお茶に口を付けた。「そうね、突然じゃなくてこの一年入退院を繰り返してたから、覚悟はできていたというかソフトランディングだったかな?」
「最近はちゃんと食べてますか、睡眠はしっかりとれてますか?」
「そうね、おかげさまでっていうところかな」
「そうですか、ではお仕事の話をはじめますが、よろしいでしょうか?」
「ええ、散骨の話よね、考えたんだけどね、この遺骨ここで保管しておいて、私が死んだら一緒に散骨するっていうのはありなの?」
「別にいいんじゃないですか?個人的にはそれもありかなとは思いますが・・・そうなさりたいですか?」
「う~ん、なんだかもう少し一緒に居たいというか・・でも散骨は今度の誕生日にしようかなと思うの、ごめんね、カイ君にとっては儲けにならない話で、だから2か月後にまた来てくれる?」
「いえ、そんなことは気にしないでください、じゃこの話また今度改めてということで・・・」カバンから出した書類を片づけ始めた
「ところであなた、この仕事して何年になるの?」
「まだ2年目ですが・・」
「今いくつなの?」
「24ですかね」
「そんなに若いの?」
「そうですかね」
「この仕事の前は何をやっていたの?」
「ホストです」
「ああ、どうりで聞き上手なのね、話してて何か安心感みたいの感じるわ」
「そうですか?人にもよりますよ、結構」
「それで、これからどうしたいとかあるの?」
「これからですか?」
「そう、だってまだ24でしょ、君の目の前には無限の可能性が広がっているじゃない、なんでもできるわよ」
「そうですか?」
「そうよ、そうに決まってるじゃない、たとえ失敗したって何度でもやり直せるチャンスと時間があるじゃない、どこでも行けるし、なんでもできるのよ」
「そういわれても、毎日が精いっぱいな気もするし・・・」
「何言ってるの、何かやりたいことはないの?」
「やりたいこと・・・・ねえ・・」
「今の会社で社長になるとか?」
「う~ん、どうかな」
「ねえ、どういう経緯でこの仕事始めたの?」
「高校卒業して東京の学校に行って、ドロップアウトして、バイトに明け暮れて、ホストに流れて、実家の親が死んで地元に戻ってきたって感じっすかね」
カイ君はすっかり友達口調になっていた。
実は前回 葬儀代を現金で払う時に家に来て、結構話し込んで、すでにお客と会社の人間という関係から距離が短くなっていた、今ではもう近所のおばさんと誰かの息子みたいな関係だった。ため口も藍子がそうしてほしいと言い出したことであった
「実家は誰かいるの?」
「姉夫婦が継いでいるというか、義兄はサラリーマンなので姉だけが農家をこじんまりとしてる感じですかね」
「農家は継ぐ気はないわけね」この青年にそんな意思は最初から感じられなかった
「そうっすね、だから東京に行ったわけだから・・・」
「それって、よくある話だよね」
「えっ」
「田舎の子が東京に憧れて、出て行ったものの現実の荒波に翻弄されて、結局行き場所が無くて実家に戻ってきたもののここにも希望も何もなくて無気力状態ってとこかな? 葬儀社にはどんなつてで?」
「うちの社長はもともと解体屋で、その流れで遺品整理とかもしてて、そこから葬儀屋を始めたみたいで、社長が遠い親戚でもあるんで、解体のバイトとか手伝っているうちに社員にされたっていうか」
「どう、この仕事は?、他にないからやってるって感じなの?」
「う~ん、毎日決まった時間で働けるわけじゃないので、オレが抜けると他の人に負担がかかるというか迷惑にもなるし・・・」
「あなた、いい子じゃん」
「は、ありがとうっす」
お茶を継ぎ足して、お菓子をすすめた。
「ねえ、もう出て行かない?ここで暮らすのかな?」
「そうですね、でもわからないかな・・・」
「じゃあさ、ここで成り上がるのはどう?」
「どう?って、なんすか」
「そうね、たとえば、この町は人口5万人でしょ、町議会は12人、選挙で最下位当選は900票。これできなくはないわよ?」
「何がですか?」
「あんたが町議会議員になるのよ、で、ゆくゆくは町長になるの」
「なんですか、それ」
「ロードマップよ」
「なんで俺が議員に?」
「男なら、テッペンとってみたくない? ココならできるって話よ」
藍子がお茶を飲み干す
「どうせなら生まれたこの土地に何か恩返しがしたくない?」
「でも、そんな急に言われても・・・」
「もちろん すぐにではないは3年はかかるけど、30代で町長になるのはアリだわ
900票を目指すにはその半分の450票でいいのよ、その前に230票、その前に120人・・・今ここに知り合いって何人くらいいる、親せきとか仕事関係とか・・・」
「そうだな~50人くらいっすかね」
「じゃ、いけるわよ」
「いけるって?」
「倍倍に増やしていけば、次の選挙に500くらいは入るわね」
「何で、勝手に選挙させてんですか」
「いいじゃない。目標を大きく持てば人生も楽しくなるし」
「なります?楽しく?」
「できるって、するのよ楽しく」
「でも、はずいっすよ、立候補なんて」
「いいのよ、落選しても、人生でやってみてダメだったってことは勲章なんだから」
「どうして?」
「やらないで後悔するより、やったらそれが経験値や実績になるじゃない、いわゆる人生の糧っていうやつ」
「でも、オレそんな資質無いっすよ」
「だから、これから始めるのよ、この秘密のプロジェクトを」
「お金もないのに・・・どうやって?」
「クラファンでも投げ銭でも、なんでも今はネットがあるじゃない?」
「あったって・…オレには自信も頭もないすっよ」
「だいじょうぶ、カイ君には人を引き付ける魅力があるから、ホストの時もそこそこだったんでしょ?」
「どうなのかな?」
「もっと続けたかった?ホスト」
「いや、ちょうどよかったのかもしれない、裏の顔っていうか人が信用できなくなっちゃって」
「女の人のウラオモテとかも、見ちゃったんでしょ?」
「はあ~いろいろ・・・」
「じゃ、はじめようよ。新しい人生をさ」
「はじめるって・・・・」
「来週、ごはん食べにおいでよ、それまでロードマップ作ってみるから・・・」
「はあ、でも・・・まあ・・ごはんは食べたいかな・・・」
「でしょ。じゃ決まり、何か食べたいものある?」
「ハンバーグ!」
「子供か?」
こうして元ホスト君の改造計画が始まった




