密室の紅茶
スマホの画面に並ぶ文字だけで、事件は進む。
会話の行間、スタンプの間の沈黙、既読スルーの意味。
すべてが手がかりであり、真実への道標となる。
これは、あなたが指で画面をスクロールするだけで体験する推理。
密室の秘密、隠された証拠、そして誰が嘘をついているのか――
文字の向こう側で、事件は静かに動き出す。
美咲
玲央さん、助けて。昨日、先輩が自殺したってニュースになってるけど……絶対おかしい。
玲央
どうして?
美咲
遺書が置いてあったって言うけど、あの人は左利きなのに、遺書は右手で書いた筆跡だったの。
玲央
なるほど。つまり他殺の可能性が高い。警察には?
美咲
田村刑事に言ったけど、証拠不十分で自殺扱いされそうで……。
田村
(グループLINEに参加しました)
おい玲央、また首突っ込む気か? 俺たちは現場を調べた。争った形跡はない。
玲央
田村さん、じゃあ質問。
窓の鍵は内側から閉まってたんですか?
田村
ああ。密室だった。遺書も机に残っていた。
玲央
美咲さん、その先輩はいつも部屋で何を飲んでた?
美咲
コーヒーです。ブラック派でした。
玲央
遺体の隣に置いてあったカップには?
田村
……紅茶が入っていた。砂糖も溶け残ってたな。
玲央
やっぱり。
彼はコーヒーしか飲まない。つまり紅茶を飲んだのは“犯人がいた証拠”です。
美咲
じゃあ……!
玲央
犯人は、紅茶を淹れて一緒に飲んでいた。
先輩が死んだ後、自分のカップだけを持ち去った。だから現場には一つしか残ってなかった。
田村
待て……そうなると、密室はどう説明する?
玲央
簡単です。犯人は“内鍵を外から閉められる細工”を知っていた。
この部屋の鍵は古いサッシで、外側から糸を通せば簡単に掛けられるんですよ。
美咲
そんな……じゃあ犯人は誰!?
玲央
紅茶と砂糖を必ず持ち歩いている人物。
そして、あなたの先輩に恨みを持っていた人物。
美咲
……部の副リーダーです。いつも紅茶を水筒で持ち歩いてて……。
田村
証言を取れば、十分動けるな。
玲央
この事件、表面は自殺。でも真相は完全な計画殺人です。
遺書の筆跡、飲み物の選択、密室トリック――全てが副リーダーの行動パターンと一致する。
美咲
でも、どうしてそんなこと……?
玲央
嫉妬と利権の争いです。先輩はプロジェクトで功績を独占し、副リーダーは表舞台に立てなかった。怒りと焦りが、計画を生んだんです。
田村
なるほど、計画的に証拠を操作していたわけか。
玲央
そして彼は、紅茶を用意することで先輩の習慣を覆し、痕跡を残さないつもりだった。しかし、嗜好の微差が逆に証拠になった。
美咲
玲央さん、やっぱりあなたはすごい……!
玲央
いや、重要なのは細部に目を向けること。人間の習慣は案外裏切るものです。
田村
さて、美咲。あなたも証言を整理して警察に提出してくれ。副リーダーの動機や普段の行動を詳しく書けば、裁判で有利になる。
美咲
わかりました……ありがとうございます。
玲央
田村さん、この事件はあくまで序章です。
こういう密室とトリックを使った計画殺人は、まだまだ他にも潜んでいる可能性があります。
田村
わかった。でも、とりあえず今は副リーダーの取り調べを優先だな。
玲央
ええ。そして、真相は必ず白日の下に。人間の小さな嘘も、推理の光に晒されれば消せません。
美咲
……先輩が救われるといいな。
玲央
ああ、正義は遅れても必ず届く。
玲央
今回の事件、最後までスマホ画面だけで見届ける形になったね。
読者の君も、スクロールしながら推理してくれたはずだ。
美咲
私も、最初は本当に自殺だと思ってた……。
でも、些細な違和感が真実に繋がるってわかった。
田村
現実の事件も、目に見えるものだけで判断するな、って教訓だな。
証拠と習慣の小さな差が、大きな謎を解く鍵になる。
玲央
言葉の裏、既読の向こう、会話の間――
推理は画面の向こう側にも存在する。
次の事件も、君の目で見届けてほしい。